カーボンナノチューブのラマン観察

▲電極間に架橋したカーボンナノチューブのラマン観察
顕微ラマンの常識を超える350nmの空間分解能
上の画像は、対向する電極間に架橋したカーボンナノチューブ(以下、CNT)をラマンイメージングした画像です。基板材料である二酸化ケイ素(SiO2)とCNTのGバンドを、それぞれ赤と緑でカラー表示しています。黒い部分は電極です。従来の顕微ラマンの常識を超える350nmという高い空間分解能で、細かなCNTの分布までとらえています。
■測定に用いたサンプルについて
測定に用いたサンプルの概略図を右に示します。SiO2膜を形成したウエハ上に、Ti,Au/Cr,Alのパターン電極が作製されています。電極間の距離(L)、電極の横幅(W)ともに4μmです。超音波処理、遠心分離をほどこした市販CNT分散液の上澄みを電極間に滴下し、5Vの電圧で泳動を行うことで、電極間にCNTが架橋されています。
※このサンプルは豊田工業大学の吉村雅満准教授よりご提供頂きました。

▲電極の俯瞰図(左)と断面図(右)
高波数領域(DバンドとGバンド付近)の観察
下のグラフは、得られたラマン画像内で任意で選択した領域(右下画像内の緑枠)内の平均ラマンスペクトルを表示しています。緑枠内のスペクトルには、グラファイトに共通してあらわれるGバンド(1590cm-1)と、点欠陥や結晶端の欠陥に起因するDバンド(1350cm-1)が見られます。

▲選択した領域(右画像内の緑枠)内の平均ラマンスペクトル
低波数領域(RBM付近)の観察
下のグラフは、ラマン画像内で個別に選択した領域(青枠、水色枠、ピンク色枠)の平均ラマンスペクトルを表示しています。各領域で異なる位置に、CNT特有のラジアルブリージングモード(RBM)のピークが見られます。各ピークに青、水色、ピンク色を割り当ててカラー表示した画像が右下の画像です。枠で囲った各領域のほか、画像中央付近にもピンク色で指定したRBMピークを持つCNTが分布していることが分かります。

▲個別に選択した領域(青枠、水色枠、ピンク色枠)それぞれの平均ラマンスペクトル
(参考)カーボンナノチューブのラマンスペクトルについて
CNTは、グラフェンの六方構造を円筒状に丸めた構造を持つ物質です。その構造は直径やカイラリティ(螺旋度)で区別され、立体構造の違いによって、金属にも半導体にもなりうるという性質を持っています。
CNTのラマン観察を行うと、入射光のエネルギーと光の吸収が共鳴することで、通常のラマン散乱に比べて1000倍程度の強度を持つラマン散乱が観察されます(共鳴ラマン効果)。この共鳴ラマン効果によって得られるCNTのラマンスペクトルには、特徴的なラマンピークが多数あらわれることが分かっています。これらのピークを分析することで、CNTの直径やカイラリティ、欠陥などを知ることができます。

▲カーボンナノチューブのラマンスペクトル
Gバンド(G+、G-)
1590cm-1付近にあらわれる、グラファイト(graphite)の物質に共通のラマンピークです。グラファイト面内の振動モードに対応しており、LO(縦光学モード)とTO(横光学モード)が縮退して強い強度であらわれます。
CNTはグラファイトを丸めた円筒形であるため、LOとTOの縮退がとけ、1590cm-1付近のG+と、それより低波数のG-に分裂したピークがあらわれます。金属ナノチューブと半導体ナノチューブで、G-のあらわれる位置は異なります。半導体ナノチューブに比べると、金属ナノチューブのG-バンドはG+から大きくずれて、1550cm-1付近にあらわれます。
Dバンド
1350cm-1付近にあらわれる、欠陥に起因するラマンピークです。ナノチューブやグラファイトに点欠陥や結晶端の欠陥が多い場合には、強い強度であらわれます。ナノチューブが持つGバンドと、欠陥由来のDバンドの強度比であるG/D比は、ナノチューブの品質を示す指標として用いられています。
ラジアルブリージングモード(RBM)
100〜300cm-1の低波数領域にあらわれる、CNTの直径やカイラリティに由来する極めて重要なラマンピークです。
孤立ナノチューブの場合、
D(nm)=248 / ν ν:ラマンシフト(cm-1)
で直径(D)を評価することができます。
さまざまな直径やカイラリティを含んだサンプルの場合、励起光の波長を変えると、それまでとは異なる種類のCNTが共鳴ラマン効果をみせるため、それまでとは異なる位置にRBMのピークがあらわれます。
その他のラマンピーク
G'バンド: 2700cm-1付近にあらわれる、Dバンドの倍音です。結晶性などには関係がなく、常にGバンドと同程度の強い強度であらわれます。
D*バンド: 1605cm-1付近にあらわれる、フォノン状態密度に関係したバンドです。Dバンドと同じく結晶性に関わっており、欠陥が多い結晶の場合に強度が大きくなりますが、Dバンドに比べると小さいです。

