SiC(シリコンカーバイド)の応力評価

SiCパワー半導体の品質を劣化させる要因の一つに、SiCウエハーに発生した欠陥があります。欠陥には、もともとウエハーの結晶成長時に含まれる結晶欠陥だけでなく、薄膜化や鏡面化などの加工プロセスで発生するものもあります。欠陥の周りには局所的な応力や歪みが生じ、この応力が新たな欠陥を生み出したり、半導体の性能を変化させたりします。信頼性の高い半導体を作製するためには、目に見える欠陥だけでなく、欠陥周辺の目に見えない応力も詳細に評価する必要があります。ラマン分光法には、ピーク位置のシフト量により応力評価ができるという特徴があるため、応力分布評価には、ラマン分光イメージングが最適です。


SiCウエハー加工表面欠陥のラマンイメージングによる応力分布評価

ラマンイメージング領域(光顕像)
研削した処理したSiCウエハの応力分布観察

カラーバー

光源波長
532 nm
対物レンズ
100倍 (NA=0.90)
回折格子
2400 gr/mm
スペクトル数
32000 (400×80)
測定時間
27分

上の画像は、SiC基板表面を研削したときの応力分布をカラースケールで示したラマンピークシフトイメージです。応力評価には、6H-SiCの789 cm-1(FTO(2/6)E2)のラマンピークシフトを用いました。ここで、6H-SiCのピーク(FTO(2/6) E2)シフト量と応力の関係は、等方2軸応力場と仮定すると-185 MPa/cm-1 であることが知られています[1]。光学顕微鏡像とラマンイメージを比較すると、光学顕微鏡で黒ずんで見える欠陥部分では引っ張り応力が生じ、反対に欠陥間では圧縮応力が生じていることが分かります。


SiCウエハーの応力断層イメージングによる研磨プロセス評価

SiCウエハー表面欠陥に由来する応力の深さ方向の分布や大きさを評価する方法として、ラマン分光法による応力断層イメージングがあります。レーザーラマン顕微鏡では共焦点性により深さ方向にも空間分解能があるため、非破壊で深さ方向の応力分布を評価できます。次の画像(1)~(3)は、SiCウエハー薄膜化の各過程での深さ方向の応力分布を示しています。(1)は研削前、(2)は研削後、(3)は研削で発生した欠陥を除去するための研磨を行ったものです。表面での評価と同様に、欠陥の周囲には引っ張り応力が、欠陥間には圧縮応力がかかっていることがわかります。

(1)研削前(光顕像で見えている線は凹凸です)
研削前の光学顕微鏡像との重ねあわせ画像
(2) 研削後
研削後の光学顕微鏡像との重ねあわせ画像
(3) 研削+研磨後
研削+研磨後の光学顕微鏡像との重ねあわせ画像
SiC研削前のXZ応力イメージ
SiC研削後のXZ応力イメージ
SiC研削+研磨後のXZ応力イメージ


次のグラフに研磨前後の深さ方向の応力プロファイル(線分析)を示します。応力プロファイルは、抜粋拡大画像の点線で評価しました。研削による応力は、(2) 研削後では4μm程度まで生じているのに対し、(3) 研削+研磨後では約2μmに軽減されていることがわかりました。このように平面、断層のラマンイメージングを組み合わせることにより、SiCウエハーの欠陥を詳細に評価することができます。また、このような応力分布評価のためには、高い波数分解能、高い空間分解能、高速イメージングの3つの性能を兼ね備えている必要があり、当社レーザーラマン顕微鏡RAMANforceの特長が存分に発揮されます。


カラーバー

研削後のXZ応力イメージの抜粋
(2)研削後の
抜粋拡大画像

研削+研磨後のXZ応力イメージの抜粋
(3)研削+研磨後の抜粋拡大画像

深さ方向のSiCピークシフト量プロファイル
      深さ方向のSiCピークシフト量プロファイル

光源波長
532 nm
対物レンズ
100倍 (NA=0.90)
回折格子
2400 gr/mm
スペクトル数
20800 (400×52)
測定時間
18分



応力によるSiCラマンスペクトルの変化について

応力により歪が生じた結晶では、ラマンピークがシフトします。ピーク位置の変化は、無歪状態でのピーク位置と比較して、引張応力下では低波数側に、圧縮応力下では高波数側にシフトすることが知られています。また、このピークシフト量は応力に比例するため、ピークシフト量から応力を見積もることができます。

本評価では、6H-SiCウエハーをカーボン面(000-1)から測定したため、789cm-1
(FTO(2/6)E2) のピークシフト量により、応力を-185 MPa/cm-1として評価しました(このとき、等方2軸応力場として仮定)。このピークシフト量と応力の比例係数は、ポリタイプや観察する面方位によって異なります[2,3]。例えば、4H-SiCの776cm-1(FTO(2/4) E2)のピークでは、c面(0001)での評価の場合には-510 MPa/cm-1、a面(11-20)での評価の場合には-480 MPa/cm-1であることが報告されています[1]。このように、ラマン分光法によるSiCの応力評価の際には、ポリタイプや観察する面方位に適したピーク・換算係数を用いることで、正しく応力を見積もることができます。

参考文献

[1] Correlation of Stress in Silicon Carbide Crystal and Frequency Shift in Micro-Raman Spectroscopy,
N. Sugiyama et al., MRS Proc, 1693 (2014)


[2] "Raman Investigation of SiC Polytypes",
S. Nakashima and H. Harima, phys. stat. sol. (a), 162, 39 (1997)


[3] "Raman Scattering from Electronic Excitations in n-Type Silicon Carbide",
P. J. Colwell and M. V. Klein, Phys. Rev. B, 6, 498 (1972)


※これらのサンプルは、エルシード株式会社様よりご提供いただきました。