ねじれ構造の二層グラフェンのTERSイメージング

ナノメートルの分解能で見るグラフェン

グラフェンは、エネルギーギャップを持たないコーン型のバンド構造を持つことで知られています。ディラック・コーンと呼ばれるそのユニークな構造により、グラフェン中の電子は質量がゼロのディラック粒子として振舞うため、グラフェンは並外れて高い移動度や散乱のないバリスティックな電気伝導など特異な性質を示します。これらの特徴により、グラフェンは、薄膜トランジスタや透明電極、フレキシブルなプリンタブル材料などのナノエレクトロニクスデバイスを作製するのに理想的な材料と考えられています[1]。

これらのデバイスの電気特性は、材料となるグラフェンシートの品質に強く依存します。グラフェン中に存在する局所的なひずみや欠陥、異物の存在などのわずかな変化がデバイスの電気特性に影響し、理想的な性能を発揮させたり、あるいは反対に予期せぬ不具合を生んだりします。

先端増強ラマン分光法は、光の回折限界を超えて、10nmから数十nmの空間分解能でラマンイメージングを行うことができる手法です[2]-[4]。下図には、グラフェンの各種TERSイメージを示しています。2D/Gのイメージからは、単層グラフェン、ねじれ構造の二層グラフェン[5](twistedbilayergraphene:後述)および多層グラフェンの分布が確認できます。2DバンドやGバンドのラマンイメージからも、同様の分布が確認できました。Dバンドのラマンイメージからは、グラフェンのエッジおよびしわの部分において、それぞれ欠陥および局所ひずみが存在することが分かりました。これらは、AFMのイメージからも同様に読み取ることができています。

 
TERSで測定した2Dシフト、2Dピーク幅およびGバンドシフトイメージ



: 単層グラフェン
: ねじれ構造の二層グラフェン
: 多層グラフェン



励起波長
488 nm
対物レンズ
100倍 (NA=1.40)
スペクトル数
4,950 (99 x 50), 20nm/pixel
測定時間
0.3 sec/pixel

ナノフォトン社製の先端増強ラマン散乱顕微鏡TERSsenseの最大の特徴は、全数検査済みの性能保証された独自開発プローブを備えている点です。プローブと金属コート基板でサンプルを挟む(ギャップモード)必要はなく、プローブだけで高い増強効果と再現性を発揮します。また、透過型の装置構成を採用しているため、NA1.4という高開口数の対物レンズが使用でき、極めて感度の高い測定が可能です。

ねじれ構造の二層グラフェンが示すラマンスペクトルの特徴

角度がずれて重なったねじれ構造の二層グラフェンにおいては、いくつかの新しい性質が現れます。ねじれ構造の二層グラフェンは、通常の二層グラフェンではなく、単層グラフェンによく似た特徴を示します。ねじれ構造の二層グラフェンの2Dピークは、強度が強いときもあれば弱いときもあり、単層グラフェンの2Dピークに比べてブルーシフトしてピーク幅も広がって検出されます。また、Gバンドにはわずかにレッドシフトがみられます。これらのピークの特徴はいずれも、グラフェンが重なり合う角度に依存しています。これは、角度のずれがグラフェンの構造に新たな自由度を与えることで、電子構造を変えるためです[6]。図2には、それぞれ2Dシフトイメージ、2Dピーク幅イメージ、Gバンドシフトイメージを示しています。

TERSで測定した2Dシフト、2Dピーク幅およびGバンドシフトイメージ





さらに、角度のずれは、ラマンスペクトルにR’ピークと呼ばれるラマンピークを生じます(Rはrotationを意味します)。このR’ピークが検出された場合、それはねじれ構造の二層グラフェンの証拠と考えることができます。このR’ピークも、グラフェンが重なり合う角度にのみ依存しています[7]。図3はR’のピーク強度TERSイメージで、ねじれ構造の二層グラフェンのドメインの存在を示しています。

TERSで測定したR’ピーク強度イメージ


 
参考文献

[1]Ferrari, A. C. & Basko, D. M. Raman spectroscopy as a versatile tool for studying the properties of graphene. Nat. Nanotechnol. 8, 235–46 (2013).


[2]Verma, P., Ichimura, T., Yano, T., Saito, Y. & Kawata, S. Nano-imaging through tip-enhanced Raman spectroscopy: Stepping beyond the classical limits. Laser Photon. Rev. 4, 548–561 (2009).


[1]Ferrari, A. C. & Basko, D. M. Raman spectroscopy as a versatile tool for studying the properties of graphene. Nat. Nanotechnol. 8, 235–46 (2013).


[3]Yano, T. et al. Tip-enhanced nano-Raman analytical imaging of locally induced strain distribution in carbon nanotubes. Nat. Commun. 4, 2592 (2013).


[4]Chen, C., Hayazawa, N. & Kawata, S. A 1.7nm resolution chemical analysis of carbon nanotubes by tip-enhanced Raman imaging in the ambient. Nat. Commun. 5, 3312 (2014).


[5] Kim, K. et al. Raman spectroscopy study of rotated double-layer graphene: Misorientation-angle dependence of electronic structure. Phys. Rev. Lett. 108, 1–6 (2012).


[6]Jorio, A. & Cançado, L. G. Raman spectroscopy of twisted bilayer graphene. Solid State Commun. 175-176, 3–12 (2013).


[7]Carozo, V. et al. Raman signature of graphene superlattices. Nano Lett. 11, 4527–4534 (2011).