ラマン分光分析テクニック

測定テクニック編

第6回 対物レンズを選ぶ

掲載日 2013年12月11日

このエントリーをはてなブックマークに追加

対物レンズを選択すると、必然的に一度に観察できる視野と細かいものが判別できる限界(空間分解能)が決まります。 また、実際の分析では、測定対象物の大きさ既知の場合と未知の場合の二通りに分けられます。 それぞれの場合において、以下のように対物レンズを選びます。

測定対象物の大きさが既知の場合
対物レンズ毎に視野と空間分解能が決まっていますので、それを参考に対物レンズを選択します。
測定対象物の大きさが不明の場合
低倍率から高倍率へと予備的に測定を進めていきます。一通り測定した後、最適な倍率を選択して本測定を行います。

上記の事を念頭において、対物レンズの倍率・開口数(NA)と視野や空間分解能の関係を見ていきましょう。

※ 開口数(NA)についての解説はこちら

対物レンズごとの視野について

測定可能な視野は、対物レンズの倍率によって決まります。 例えばレーザーラマン顕微鏡RAMANtouchのラマン画像の最大視野は、下表のようになります。 そのため、測定対象物が視野内に収まるように対物レンズの倍率の選びます。

 
▼対物レンズごとのラマンイメージの最大視野
対物レンズの倍率 最大視野(横 [μm]×縦 [μm])
5x 1600 x 1400
10x 800 x 700
20x 400 x 350
50x 160 x 140
100x 80 x 70

 

対物レンズごとの空間分解能について

共焦点光学系において、空間分解能は対物レンズの開口数NAで決まり、平面(XY)方向と深さ(Z)方向でその値は異なります。 共焦点光学系においてスポットサイズ程度のピンホールを使用したときの、平面および深さ方向の空間分解能の理論式を以下に示します。 平面方向の空間分解能dxyはNAに反比例、深さ方向の空間分解能dzはNAの2乗に反比例します。
平面方向の空間分解能
深さ方向の空間分解能の式 NAが0.5以下での深さ方向の空間分解能の近似式
ここで、nは対物レンズと試料間の媒質の屈折率、λは励起波長です。 開口数NAは屈折率nに比例するため、平面および深さ方向の分解能はどちらも屈折率nに反比例します。 そのため、水浸レンズや油浸レンズを使うことで空間分解能を向上させることができます。 上式を用いて、実際に理論的な空間分解能を計算した結果を下図に示します(λ=532nm、n=1.0の場合)。 NA=0.90の時、理論的な平面方向の空間分解能は約300nm、深さ方向の分解能は約830nmになります。


NAによる空間分解能の変化
▲NAによる空間分解能の変化

測定の際には、測定対象物の大きさに対して空間分解能が十分良くないと、測定対象物を判別できないため、視野の広さよりも空間分解能を優先する場合が多いです。 視野の狭さは、測定領域を複数回に分けることで対処します。 また、試料表面の凹凸に対する許容範囲は深さ方向分解能を目安にします。 なお、透明な試料や深さ分解能よりも凹凸が大きな試料であれば、共焦点光学系の特徴を活して深さ方向の情報も得ることができます。 すなわち、焦点位置を変えてライン測定を繰り返す断面(xz)イメージング、もしくは、平面イメージングを繰り返す3Dイメージング(xyz)測定を行うことが可能です。

 

特殊対物レンズについて

最後に、試料をガラス越しに測定する場合や、溶液中にある場合等の特殊な環境に置かれている場合は、それに適した対物レンズを使用します。 以下に代表的な特殊対物レンズについて説明します。

液浸……溶液中の試料を測定する場合に用います。また、通常の対物レンズ使用時と比較すると、溶液は屈折率が高いためNAが向上します。そのため、空間分解能を向上させるために液浸レンズを使用する場合もあります。

ガラス補正……カバーガラスや観察ガラス窓材越しの測定に用います。ガラスの厚さは0mmから1.2mm程度の範囲内で調整できるものもあります。

長作動……作動距離が長くなっているため凹凸のある試料の測定に用います。 加熱下の観察で対物レンズを熱から守るため作動距離を長く取りたいといった、特殊な試料環境下などでの測定にも使用されます。

近赤外用……励起波長に近赤外レーザーを用いる場合は、対物レンズの性能上、近赤外専用対物レンズのご使用をお勧めします。近赤外領域での色収差や透過率が改善されています。 なお、上記の対物レンズ群とは異なり、試料周りの環境に適用させた対物レンズではありません。

特殊対物レンズの模式図

▲特殊対物レンズの概説図