ラマン分光分析テクニック

測定テクニック編

第10回 深さ方向分析時の屈折率ミスマッチの影響

掲載日 2014年10月14日

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深さ方向の分析の際には、試料内部にレーザーをフォーカスするために、屈折率差によってレーザー焦点が劣化したり、ステージの移動距離と焦点位置のずれが生じたりします。 実際の測定の際には、屈折率差の影響がどれくらいあるのかということを踏まえて、適切な対物レンズを選ぶ必要があります。

 

屈折率ミスマッチによるレーザー焦点の劣化による影響

前項の空間分解能は、理想的な測定系の場合の話ですが、実際に、深さ解析を行う場合には、試料の内部にレーザーを照射することになります。この時、対物レンズと試料の間(空気)、と試料の界面で屈折率ミスマッチがあり、この界面でレーザー光線が屈折し、その焦点が劣化するので気をつける必要があります(図1、参考文献)。その屈折率ミスマッチの影響で、測定した時の空間分解能や、測定信号の量が劣化します。異物解析の場合は、異物の信号に、周囲の物質の信号が乗っかってくる割合が増えます。

 
屈折率ミスマッチの際のレーザー焦点の劣化

図1 屈折率ミスマッチによるレーザー焦点の劣化
 

参考文献で紹介されている計算方法で、試料内部にフォーカスしたレーザー焦点の強度分布を図に示します。 レーザー波長λ=532nm, NA = 0.9 (100倍対物レンズ相当)、 試料の屈折率n = 1.52としています。試料表面にフォーカスをした状態から、試料zステージを動かした距離をNFP(Nominal Focus Position)とし、屈折により焦点がNFPから移動した実際の位置をAFP(Actual Focus Position)としています。 NFP = 10umだと、かなりレーザー焦点が劣化していることがわかります。


図2 試料内部でのレーザー焦点の劣化
 

もう少し、詳細にみるために、試料中のフォーカス強度を、z方向にプロットしたグラフを示します。3つのグラフはそれぞれ、NA= 0.9, 0.8, 0.45の異なる対物レンズで集光している時の結果です。NAが小さくなるほど、試料深部にフォーカスした時の劣化が小さいことがわかります。

 

図3 NAによる試料深部でのレーザー焦点の様子
 

屈折率ミスマッチによる深さ方向のキャリブレーション

試料内部を測定しているときは、その屈折率差のため、 試料zステージを動かした距離(NFP)は、試料中でレーザー焦点が動いた距離(AFP)とは異なりますので、測定した深さプロファイル等のデータの深さ軸は、試料ステージを動かした距離から、実際に試料中でレーザー焦点が動いた距離に較正する必要があります。
焦点を作る光線の外側の光線が、焦点の位置に大きく貢献すると仮定し、またNAが小さいと仮定すると、
      ・・・(1)
の式が導かれます[参考文献]。(n1は空気の屈折率、n2は試料の屈折率)。
下記に、計算から導出されたNA = 0.9, 0.8, 0.45のNFPに対するAFPをプロットしたグラフを示します。概ね式(1)と一致することがわかります。

屈折率ミスマッチによる深さ位置のキャリブレーション

図4 試料zステージを動かした距離(NFP)と試料中でレーザー焦点が動いた距離(AFP)の関係。
 

適切な対物レンズの選定

屈折率差の影響を避けるためには、最適な対物レンズを選択する他ありません。対物レンズの候補としては、油浸対物レンズ、水浸対物レンズ、ガラス補正環付き対物レンズなどがあります。
油浸対物レンズの場合、試料と対物レンズの間を屈折率1.52の油で満たした状態(屈折率1.52のガラスとの屈折率差をなくす目的)で、焦点が正しく結ぶように設計されています。ポリマーやその他の試料の屈折率と完全にマッチングしないまでも、屈折率差を小さくして、レーザー焦点の劣化を軽減できます。水浸対物レンズの場合は、屈折率1.33の水で満たした状態にしますので、比較的に屈折率の低い試料との屈折率マッチングに向いているかもしれません。ガラス補正環付き対物レンズは、屈折率1.52のガラスの厚さに合わせて調整できるようになっています。試料の深いところを観察するときは、この補正リングで試料の深さ(X屈折率)を補正して使用すると、良いレーザー焦点を形成でき、良い深さ解析の結果が得られます。詳しくは、当社のラマン分析テクニック「第6回 対物レンズを選ぶ」を参照ください。

参考文献:
S. Hell, et all, Journal of Microscopy, Vol 1369 pp391-405 (1993)