新型コロナウイルスの感染拡大で世界経済は大打撃を受け、今後の見通しも不透明な状況です。そんな中、ナノフォトンは危機をチャンスに変えようと、新製品の開発や発信力の強化に力を注いでいます。メールマガジンも、外部のライターを編集長に据えて定期的に発行することになりました。初回発行に当たり、創業者の河田聡会長に現在のナノフォトンついて聞きました。(メルマガ編集長・根本毅)

——日本も緊急事態宣言が延長され、出口が見えない状態です。

実は、ナノフォトンにとっては2003年に創業して以来7回目の危機なんです。これまでリーマンショックや円高、半導体不況など6回の危機を経験しました。ライバルの大企業に特許侵害で提訴された訴訟も含まれます。4年後に完全勝訴したから良かったものの、負けたら破産していました。これらの厳しい危機に直面しても生き残っています。今回も大丈夫です。

——ナノフォトンは、河田会長が大阪大学教授の在職中に創業しました。改めて、どのような会社を目指しているかお聞かせください。

私たちは、基本的に他の会社と競いません。ナノフォトンは科学者が作った会社です。サイエンティストは他の研究者と競争しないんですよ。他の人がやり出したら、その人に任せたらいい。他の人が気づかないこと、他の人ができないことをやるのが科学者だと思います。

ナノフォトンは、他社が思いつかないラマン顕微鏡を作りました。ただ、最大の問題は、それが売れるとは限らない。ベンチャービジネス共通の問題です。死の谷とかダーウィンの海とか言われますが、誰も作らない物を作ったけれど、それを求める人もいなかったということが起こる可能性があります。

——しかし、死の谷を乗り越えました。

知名度のない我々しか作っていなかったら、売れないままでした。他社がこの業界に参入し、ラマン顕微鏡を製造して宣伝してくれたから、お客さんはナノフォトンも見つけ出してくれて、比較して、買ってくれました。

——サイエンスと似ていますね。最初、誰もやらなかったことを始めた研究者が何かを発見し、他の研究者が続々と参入して大きな研究分野に育つ。その最初の人にノーベル賞が贈られます。

 その通りです。画期的な製品を作っても、付いてくる人がいなかったら死の谷で溺れます。誰かが付いてこられる距離でないといけないわけです。

——新型コロナ禍で経済が停滞している今、ナノフォトンはどのような活動をしていますか。

仕事ができなかったり、日常生活に不便を感じたりしている方が多いのは大変お気の毒ですが、社員には「皆が動けない今こそチャンスが訪れる」と言っています。今までやれていなかったこと、すなわちウェビナーの企画やホームページでの発信、在宅勤務の推進、新製品の開発などを一生懸命やっています。まだお話しできないことも準備を進めています。ずっと自転車操業でしたが、一度立ち止まり、原点に戻っていろいろなことを考える時間が必要です。

押印やコピー、紙の資料の保管の廃止とオンライン化を半年前くらいから言っていたのですが、突然実現しました。在宅勤務も進み、会議はZoomでやっています。週休3日制も導入の準備をしています。

——「Stay home, stay healthy with fun!」キャンペーンを始めましたね。

新型コロナウイルス感染拡大と緊急事態宣言のため、テレワークを余儀なくされているラマン顕微鏡ユーザーやコロナウイルス感染関連の研究者の皆さんを支援するためです。7月30日までにラマン顕微鏡をご注文いただいた方に、MacBook AirまたはiPadをプレゼントします。以前、iPadでラマン顕微鏡の遠隔操作やデータ分析ができるようにしましたが、当時はユーザーからの要望がなく機能を更新していませんでした。遅くとも今年度末までに復活させる予定です。その時に使っていただけたら、と思います。新型コロナの研究者にもラマン顕微鏡に興味を持っていただきたいため、メッセージを発信しました。

——新製品のRAMANwalkについてお聞かせください。どういう製品なのですか。

ホームページに製品を紹介したページがあるので見ていただきたいのですが、ここでは簡単に説明します。世の中の画像測定装置は全部、テレビと同じラスタースキャンなんです。横向きに上から下まで走査するので、1画面終わるのにものすごく時間がかかる。でも、地図がない宝島に行って宝を探すのに島の端から順番にラスタースキャンをする人はいないわけで、適当にいろんなところを調べて、何もなさそうだったら別の場所に行って、怪しいならもっと調べるということをする。RAMANwalkも、レーザービームをランダムに動かして測定します。他社がまねのできないナノフォトンだけの技術です。

これは10年前にはできませんでした。GPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)というゲーム用のICチップが登場し、一瞬にして画像のマッピングができるようになりました。さらに、数理科学と情報理論を駆使して測定の最適化を行っています。我々の実験では測定時間が5〜10倍速くなりました。

——「walk」の名称は何が由来なのですか。

ビームがランダムウオークする、というところからです。ナノフォトンの製品は、RAMANwalkのように後ろに「touch」「drive」「view」などの単語が付いています。いずれも誰でも覚えられる簡単な英語です。動詞であって名詞という一貫性もあります。覚えてもらえる製品名でないと、小さな会社の製品は認知されません。

RAMANwalkは当初、モンテカルロ顕微鏡と呼んでいました。最適解を見つける時に用いる数値計算手法の一つのモンテカルロ法から取りました。論文でもモンテカルロの名称を使いましたが、やはり覚えられないと考え、散々悩んで「RAMANwalk」にしました。

——RAMANwalkは低価格も魅力の一つですね。

主力製品のRAMANtouchは400点同時に測定して高速にラマン画像が得られますが、非常に強いパワーのレーザーと特別な分光器が必要です。そのため価格は2500万〜4500万円になりますが、RAMANwalkは1点ずつレーザーを当てるため価格を半額程度に抑えられ、1500万〜1800万円です。サイズもコンパクトになり、より使いやすくなりました。ぜひ、購入をご検討ください。