シリコン-黒鉛負極のサイクル特性解析

▲シリコン-黒鉛電極の表面形状とラマン画像の重ね合わせ。サイクル前はナノシリコンが点在しているが・・・

:ナノシリコン
:ケッチェン・ブラック
:グラファイト

光源波長532 nm
スペクトル数24,000 (400×60)
測定時間 (ラマン)60分
測定時間 (表面形状)30秒

サイクル前後でのシリコンの変化を高分解能イメージング

上の画像は、シリコン-黒鉛コンポジット負極の表面形状(グレー部分)に、ラマン画像(カラー部分)を重ね合わせた画像です。350nmという高い空間分解能を誇るRAMANplusを用いることで、ナノシリコンやケッチェン・ブラックなどの成分分布を高精細にイメージングすることができます。ここでは、シリコン-黒鉛負極について、
  (測定1)バインダーとしてPVdFを用いた場合
  (測定2)機能性バインダーであるPAANaを用いた場合
とで、サイクル特性がどのように変わるのかを、RAMANplusで測定してみました。

■測定に用いたサンプルについて
シリコン-黒鉛試料:
  ・ナノシリコン粉末(アルドリッチ製)
  ・天然黒鉛(粒径3μm)
  ・ケッチェン・ブラック
  ・バインダー(PVdF、もしくはPAANa)
電極組成:
  Si : 黒鉛 : KB : バインダー = 20 : 60 : 10 : 10
対極、参照極: リチウム箔
電解液: 1M LiPF6 EC:DMC (1:1)
セルタイプ: コインセル(2032型)

※このサンプルは、東京理科大学の駒場慎一准教授の研究グループよりご提供頂きました。

▼シリコン負極の調整方法

(測定1)結果: 体積膨張により孤立し、不活性になったナノシリコンを観測

下の2つのデータは、バインダーにPVdFを使用したシリコン-黒鉛電極のサイクル前後におけるラマン測定結果です。サイクル前の電極表面には、結晶性の高いナノシリコン(赤)が点在している様子が観察できます。しかし、サイクル後には、合金化(アモルファス化)が進んだ領域のほか、体積膨張によって集電体との導通がとれなくなって、不活性となったナノシリコン(左下画像、赤丸内)も観察されています。

サイクル前:  結晶性の高いナノシリコン(赤)が点在しています

サイクル後:  体積膨張によって電極表面から剥がれ落ちて、不活性となったナノシリコンが見られます

(測定2)結果: 表面全域にわたって均一に合金化されたアモルファスシリコンを観測

下の2つのデータは、機能性バインダーであるポリアクリル酸系高分子(PAANa)を使用したときの、シリコン-黒鉛電極のサイクル前後におけるラマン測定結果です。電極表面を覆ったポリアクリル酸ナトリウムは、シリコンが膨張する際の崩壊を防ぎ、より安定なサイクル特性を実現することが報告されています。RAMANplusでの測定結果を見ると、サイクル後において、電極表面全域にわたって均一に合金化(アモルファス化)が進んだことが確認できました。

サイクル前:  結晶性の高いナノシリコンが点在しています

サイクル後:  電極表面全域にわたって均一に合金化(アモルファス化)が進んだことが確認できます

(オプション)不活性ガス中や電解質中でのIn-situラマン測定も対応

ナノフォトンでは、お客様のご要望に応じて、In-situラマン測定のための専用セルの設計にも対応いたします。電解質中での測定では、水浸対物レンズを使用することで、より高い空間分解能でのラマンイメージングが可能となります。

(参考)機能性バインダーPAANaの作用機構について

従来の10倍以上の理論容量を誇るシリコン負極は、次世代の二次電池材料として期待されています。しかし、充電中にリチウムを取り込む過程で、体積がおよそ4倍も膨張し、割れて崩壊してしまうという問題を抱えています。そのため、サイクル寿命が短くなり、実用化が困難となっていました。

機能性バインダーであるポリアクリル酸ナトリウム(PAANa)は、電極表面を均一に覆って糊の役割を果たし、シリコンが膨張して崩壊するのを防ぐ機能を持っています。PAANaを使用してサイクル特性を改善することにより、高容量負極材料であるシリコン負極の電池性能を大幅に向上できるため、実用化も期待されます。

機能性バインダーPAANaの作用機構

参考文献

M. Winter et al., Electrochem. Solid-State Lett.,11, 5 (2008). 
S. Komaba et al., Electrochem. Solid-State Lett., 12 107 (2009).
S. Komaba et al., J. Power Sources, 189, 197-203 (2009).

「今後の電池開発をアシストする強力な新ツール」 東京理科大学 駒場慎一准教授

▲駒場慎一准教授

「ナノフォトンのラマン顕微鏡の強みは、優れたイメージング性能にあると思います。たとえば、集電体である金属箔上に塗布した各種の電極活物質層が、充放電反応中にどのような形態変化を起こすのか? さまざまな化学物質がどのように分布するのか? こういった情報を、高速かつ数百ナノメートルの分解能でイメージングすることができます。リチウムイオン電池の高エネルギー密度化を実現するには、電極活物質の結晶構造や表面状態を分析する優れた手法が必要不可欠です。ナノフォトンのラマン顕微鏡は、今後の電池開発をアシストする強力な分析ツールになると考えます。」