ラマン分光装置の性能に関して

ラマンスペクトルの横軸を波数で表示するのはなぜ?

ラマン散乱光そのものは様々な波長の光ですが、ラマンスペクトルの横軸は一般的に波長ではなく波数で表示されます。それは、ラマン散乱が、分子の固有振動エネルギーが光に変換されたものだからです。振動数は周期(光においては波長)の逆数になりますから、ラマンスペクトルも波長の逆数である波数で表示することで、分子の固有振動数が分かり、分子種を推定できるわけです。そのほか、横軸を波長ではなく波数で表示することで、励起波長によらずにラマンスペクトルを比較できることや、赤外の測定結果とも比較できる点も有用です。

ラマン分光分析で定量測定はできる?

絶対値として定量測定を行うことはできませんが、参照サンプルを用いて検量線を作成すれば可能です。

スポットサイズ、空間分解能、ピクセルサイズの関係は?

スポットサイズはレーザービームを対物レンズで絞り込んだときのスポット径のことで、理論的にはレーザー波長と対物レンズのN.A.で決まりますが、照明用の光学系が適切に設計されているかどうかで性能が出るか出ないかが変わります。空間分解能はスポットサイズと同じ意味と考えても実用上は問題ありません。実際には、試料から生じたラマン散乱光を検出するための光学系の性能が関わってくるので、厳密にはスポットサイズと空間分解能は異なる概念です。顕微ラマンでは、一般的に共焦点(コンフォーカル)光学系を採用していますが、ピンホール径やスリット幅を小さくしていくと、空間分解能はスポットサイズよりも小さくなります。ただし、検出器に届く光量が減ってしまうため、あまり実用的な話ではありません。一方、ラマンイメージにおけるピクセルサイズは、測定のスキャニングピッチのことで、空間的にどれくらい細かいピッチでデータを取得するかを意味します。ナイキスト定理より、分解能の2倍程度細かいピクセルサイズを選択すれば、十分であるといえます。

ラマン分光分析における感度、明るさとは?

ラマン散乱光が微弱なこともあり、少しでもいい感度、明るさ(バックグラウンドに対する検出強度)といったものが求められます。分光器の明るさを表す数値に「f値」というものがあります。f値は焦点距離が短いと数値が小さくなり明るくなりますが、光学的効率上は絶対値としてどうあるべき、というものではなく、分光器と入射光源側のf値がマッチングしていることが重要です。たとえば、分光器のf値に比べて光源側が明るすぎると回折格子の外側にも光が広がって迷光になり、逆に分光器側が明るいと回折格子の全面に光が当たらず使い切れないことになります。市販されている装置の中には f値の異なるものがありますがそれぞれに適した光学系を組んでいるため、「 分光器のf値が小さい=明るい、感度がいい」と一概には言えないので、仕様を比較する際には注意が必要です。

紫外~近赤外まで同居させることに問題はある?

複数の波長のレーザーを一つの装置に設置する場合には、注意が必要です。それは、それぞれの波長に適した部品や設計があるからです。特にレンズは対応波長範囲が決まっており、その範囲外の光に対しては大幅に性能が低下してしまいます。そのため、たとえば光学顕微鏡メーカーでは、紫外領域用、可視領域用、近赤外領域用にそれぞれ異なる対物レンズを用意することで、それぞれの領域で必要とされる性能を達成しています。 同じことがラマン分光装置の内部の光学部品についても言え、波長の近いレーザー間では共有できる部分も存在しますが、紫外~近赤外すべての領域において同じ光学部品で対応させようとすると、いずれの波長領域でも不十分な性能となってしまいます。いずれの波長でも測定できる「オールマイティ」な装置にしたつもりが、実際は何も測れず、使える波長は結局1つだけ、ということにもなりかねません。測定の目的と、それに必要な仕様をきちんと満たせる装置になっているかどうか、しっかりと見極める必要があります。

サンプルサイズと視野の話

サンプルの大きさは、大きい側は「ステージに乗る程度」で、目安としては5cm x 7cm x 厚み2.5cm程度です。小さい側は顕微鏡で探して焦点を合わせられるものであれば、粉末でも可能です。視野サイズは対物レンズに依存し、たとえば20倍では観察視野が400μm x 600μm、イメージング範囲は最大で400μm角程度です。100倍の対物レンズであれば、観察視野が80μm x 100μm、イメージング範囲は最大で80μm角程度になります。

光の侵入長とラマン散乱光の分析深さの話

ラマン散乱光は、どのくらいの深さの情報を拾っているのでしょうか? 物質と照射する光の波長の組み合わせにより異なりますが、以下のような考え方で見積もることができます。まず、物質を通過する前後の光の強度に関しては、以下の式に従います(表面で反射する成分は無視しています)。

侵入長の定義は、光の強度がI0の1/eの強度になる距離です。上式より光の侵入長L0を求めると、

となり、吸収係数の逆数になることがわかります。ただしラマン散乱の場合は入射光・散乱光ともに吸収されるため、実際に観測される領域の深さはその半分、1/(2α)になります。たとえば結晶シリコンの532nmでの吸収係数はおよそ10の4乗cm-1なので、これで測定した場合には500nm程度の深さまでの情報を拾っていることになります。

レーザービーム走査は視野の端を照射するとスポットが歪む?

これはレーザービーム走査に関してよくある誤解です。正しく設計されたレーザービーム走査光学系であれば、顕微鏡視野の中央を照射しているときも、端を照射しているときも、レーザーは観察面に対して垂直に入射されます。

RAMANtouchについて

RAMANtouchの空間分解能が高いのはなぜ?

光学理論に忠実に設計し、光学設計の専門家が組み上げているため、どの機体も安定した仕上がりになっています。また、コンパクトなサイズなので、周辺環境の変化に伴う機械的ズレが生じにくい構造になっています。

レーザーを切り替えたときの光学系の調整は?

不要です。ワンクリックで切り替えていただければ、あとは自動で必要な調整が行われます。

回折格子を切り替えたときの光学系の調整は?

不要です。ワンクリックで切り替えていただければ、あとは自動で必要な調整が行われます。

ラマンイメージングはどのように作られるの?

イメージング範囲の各ピクセルには、それぞれラマンスペクトルデータが含まれています。たとえば、ある波数位置のピークに色を割り当てると、各ピクセルに含まれるラマンスペクトルの当該ピークの強度に応じて、各ピクセルに色の濃淡が生じます。それが、そのピークに代表される成分の濃度分布を表していることになります。同様に、違う成分を代表する別のピークに異なる色を割り当て……とすることで、複数の成分が含まれている場合にもそれぞれの成分の分布を調べることが可能です。

なぜライン照明とレーザービーム走査を採用しているの?

ナノフォトンはレーザー顕微鏡の技術から出発したため、自然な発想としてレーザービーム走査を採用しました。その結果、電動ステージを動かして測定位置を微調整するわずらわしさや、ステージ移動に伴う振動や試料のズレなどの悩みはありません。さらに、独自のライン照明技術により、一度の照射で400本のラマンスペクトルが取得できるため、ハイスピードなラマンイメージング分析が可能です。

ライン照明の強度ムラは?

ライン照明では中央と両端のムラが気になりますが、 RAMANtouchは独自の技術により照明ムラを大幅に解消しています(特許取得済み:US7561265)。

ハイパワーレーザーだと、試料へのダメージが生じるのでは?

当社の装置はレーザーパワーをほぼ無段階(256段階)に調整可能なNDフィルターを搭載しています。ダメージの心配がない試料であればハイパワーで効率よくラマン信号を取得し、反対に熱に弱い試料であればNDフィルターでレーザーパワーを落として測定することが可能です。

ラップフィルムの断層構造を非破壊で測定できるのはなぜ?

当社のレーザーラマン顕微鏡RAMANtouchは、優れた共焦点光学系によりZ方向も1μmという高い空間分解能を保証しています。そのため、透明な物質であれば内部に焦点を合わせて、その高さ位置のラマン信号のみを取り出すことが可能です。数100nmずつ積層された薄いラップフィルムも、表面から焦点位置を変えながら測定することで、断層情報を取り出すことができます。

サンプルサイズと視野の大きさは?

サンプルの大きさは、大きい側は「ステージに乗る程度」で、目安としては5cm x 7cm x 厚み2.5cm程度です。小さい側は顕微鏡で探して焦点を合わせられるものであれば、粉末でも可能です。視野サイズは対物レンズに依存し、たとえば20倍では観察視野が400μm x 600μm、イメージング範囲は最大で400μm角程度です。100倍の対物レンズであれば、観察視野が80μm x 100μm、イメージング範囲は最大で80μm角程度になります。

RAMANdriveであれば、300mm四方のサンプルに対応しています。

視野の大きさとピクセル分解分解能の大きさは?

観察倍率と観察視野サイズ、最大イメージング範囲は以下の図が参考になります。ピクセル分解能は、それぞれの視野内を1万分割するほどの能力を、走査光学系が備えています。

表面モフォロジーは測定できる?

当社のレーザーラマン顕微鏡では高さや表面粗さなどの数値情報を得ることはできません。

表面の凹凸はラマンイメージングに影響する?

レーザーラマン顕微鏡は、大きな凹凸のあるサンプル表面のイメージングを苦手としています。これは、焦点が合わない箇所の情報をカットする共焦点光学系を採用しているためです。サンプルの光学顕微鏡像を見たときにあまり気にならない凹凸であれば、ラマンイメージングにもそれほど影響を与えません。一方、問題が生じるような凹凸がある場合も、同じ倍率の長作動距離の対物レンズを用いることで、凹凸の影響を軽減できます。3D-Build機能を使うと、高さ情報の異なる画像の焦点が合っている部分のみ重ね合わせた像を合成できるので、凹凸の大きな試料を測定する際に有効です。あるいは、当社製品の広視野ラマンスコープなら、1mm程度の大きな凹凸があってもピンボケの少ないイメージング分析が可能です。

ラマンイメージングの測定時間を決める要因は?

ライン照明でイメージングする場合は、1回の照射でX方向400ピクセル分のデータが得られます。照射位置をY方向に変えながら連続的に繰り返して、イメージング範囲を広げていきます。そのため測定時間は、「照射時間/1ライン x Y方向のピクセル数」で決まります(厳密には、CCDのデータ転送時間も考慮する必要があります)。必要照射時間は試料の熱ダメージの受けやすさや、ラマン活性の程度により変わります。

装置の保守にかかわることについて

レーザーに寿命はある?

代表的なものに、レーザーを発振するダイオードの経時劣化があります。電流が流れている状態では、ダイオードはレーザーを構成している部品の中でもとりわけ高温になるため、早く劣化していきます。そのほかにも発熱が多く寿命の短い部品があるので、それらを総合すると一般的におよそ5年がレーザーの交換の目安といわれています。

レーザーが故障した場合の修理対応と費用は?

1年間の保証期間内に発生した不具合については、出張費・作業費ともに無償で対応いたします。保証期間を過ぎた故障については症状に応じた費用が発生します。修理が必要な場合はレーザーを取り外して持ち帰り修理となります。その際、代替品をご用意できる場合もありますのでご相談ください。レーザーの修理は一般的に高額となります。弊社ではお客様の急な出費を防ぐ保守契約をご用意しておりますのでご検討ください。

保守部品として何を在庫する必要がある?

在庫が必要な保守部品はありません。当社のラマンイメージング装置にはレーザー以外に消耗品はなく、レーザーについてもユーザーご自身で在庫をお持ちいただく必要はありません。

トラブルが発生した場合の対応時間は?

まずは弊社、もしくは販売代理店までご一報ください。仮に設置担当者が不在でも、技術対応可能な人員がおりますので、まずはお電話で状況を伺い、迅速に一次対応をいたします。訪問して状況確認が必要となった場合には、1週間以内に初回訪問できる体制です。