数年前にある雑誌にエッセイを頼まれて書いてみたら、内容が社会常識と違うとして掲載拒否された話があります。日本人の「携帯電話嫌い」は異常であるという話です。ドイツで長距離列車に乗ると、皆が座席で携帯電話をしています。アメリカで飛行機に乗ると、出発まで機内で携帯電話ができます。欧米の空港のラウンジでは、携帯電話の使用はもちろんのことOKで、それに加えて固定電話機が至る所に設置されており、ソファーに座って電話をしています。携帯電話が広まる以前から、アメリカの飛行機には座席一つずつの前に電話が付いていました。片や、日本。もちろん携帯電話使用は公共の場で一切禁止です。隣の人と話をしてもよくても、携帯電話で離れた人とは話をしてはいけないのです。
では日本人が静寂が好きなのかというと、決してそうではありません。電車の中では、若者やおばちゃんの集団がわいわい騒いでいます。独り者だけが肩身が狭いのです。独り言は気持ちが悪いけど、皆で騒げば怖くない。これは、文化の問題だと思います。携帯電話の迷惑に注意を促す電車が、自らやたらうるさく放送をする。「お忘れ物無きよう」とか、「傘を忘れるな」とか、「携帯電話の使用を自粛しろ」とか、やたらやかましい。エスカレーターに乗れば、「黄色い線の中」に立てとか「子供の手をつなげ」とかやかましいし、百貨店や喫茶店での音楽放送や館内案内もうるさい。小学校では、先生の呼び出しの放送や昼の音楽放送が私にはずーっとうるさかった。パチンコ屋の騒音に至っては、もう理解不能です。ラスベガスのカジノはもっとさわやかで静かです。それでも携帯電話だけがうるさいという人、一度アメリカで電話をとってください。聞こえる音がとても大きいのです。相手の声が聞こえにくいと言うことはまずありません。日本の電話はとても音が小さく聞こえにくい。その結果、日本では電話で大声で話すことになります。
文化論に加えて、テクノロジー(特に人間工学テクノロジー)に、日本の常識と世界の常識に大きなギャップがあるという、一例です。SK