第31回会長室から 
『M&Aのいきさつ』


M&Aについてはお話をしたことが一度もありません。

ナノフォトンを買収したいという話はこれまでにも幾度かありました。特に、昨年度にはある企業からぜひとも買収したいとの申し出があり、真摯に検討し調整をしたのですが、破談になりました。先方はラマン顕微鏡には関心がなく、会社の売買にだけに興味があったようです。

上場とかM&Aは、私にとっては会社の出口(Exit)ではありません。ナノフォトンの出口は、ナノフォトンが弛むことなく世界にない独創的な顕微鏡を開発し続け、ナノフォトンの顕微鏡を必要とする世界中の顧客に提供することです。これまでナノフォトンは、日本、韓国そして東南アジアにおいてプレゼンスを示してきましたが、世界中に製品を提供することはできませんでした。世界中でラマン顕微鏡を製造し、販売して保守をするためには、ナノフォトンにはお金と人と時間が足りません。仮に出口として上場を選ぶと、ナノフォトン株は市場で売買されることになります。不特定の株主や投資会社は一時の利益を求め、私たちの夢はまさに夢で終わることでしょう。

ブルカー社はパートナーとしてベストな選択だと思っています。ブルカー社はナノフォトンと同様に大学教授が創業し、今も社長や経営陣は博士号を持ち、大学教授経験者やスタートアップ経験者も多くおられます。ナノフォトンとは規模が異なりますが、文化は似ています。ブルカー社は核磁気共鳴や質量分析計などの分析機器を開発して製造、販売するグローバル企業です。赤外分光やX線分析のトップメーカーでもあります。そこにナノフォトンのラマン顕微鏡が加われば、大きな相乗効果が期待できます。ナノフォトンのラマン顕微鏡は、分光器の非点収差と顕微鏡の色収差との相反する問題を解決し、また、時間とスペクトルをそれぞれ分解することによって生じる膨大な測定時間を短縮する原理を有しています。そのため、レーザービーム走査で、かつ超高速のラマン顕微鏡は、創業時の20年前から今まで、ナノフォトン製品だけなのです。

M&Aの交渉に当たって、全株式の譲渡が完了するまで、家族にも社員にも顧客の皆さんにも、そのことを伝えませんでした。大変驚かれたことと思います。

M&A後も、ナノフォトンの伝統と文化を維持することを私たちは契約条件としています。株主が変わっても、ナノフォトンの哲学は変わりません。ナノフォトンのロゴも商品名もそして社員も皆、これまで通りです。
引き続き、ナノフォトンへ一層のご支援をお願い申し上げます。

2024年2月24日
ナノフォトン株式会社
代表取締役会長兼社長 河田 聡