会長室からChairmans Office

第9回会長室から
『電線マン』


「日本は美しい」と日本に来た人たちが言います。街にはゴミが落ちてなく、トイレはどこもピカピカで、電車の中も外も駅もきれいで、街を歩く人たちはスーツ姿でかっこいい。

そうなんです。日本はとても美しいんです。頭上さえ見なければ。

映画「ラストサムライ」で、サムライ姿のトム・クルーズと渡辺謙が馬に乗って街中を進むシーン。彼らの頭上に電線が何十本も見えます。道には電柱が建っています。時代設定は戊辰戦争のころですから、まだニューヨークにすら電線や電柱はなかったはずです。それなのにどうして電線と電柱?

これも外国人が見る日本のイメージなんです。その昔、南カリフォルニアに住んでいた私は、国境を越えてメキシコのティファナにときどき遊びに行きました。その度に日本を思い出しました。道路沿いに電柱が並び、頭上に電線が張り巡らされていたからです。街は駐車違反の車だらけ。メキシコは貧しいなあと思ったものでした。

「頭上に電線は要らない」と、これまであちこちに書いてきました[1]。東大先端研の初代所長で工技院融合研の初代所長の大越孝敬先生は30年前から、電柱と電線を無くすべきと訴えておられました[2]。今の都知事さんも都知事選で、電線を地中に埋めると公約されました。

日本の美しさとは、余計なものが一切ない自然美であり素朴さの美だと思います。いろんな装飾品でデコレーションしたものは、日本の美しさとは異なります。だから、電柱と電線に違和感を感じるのです。日本の携帯電話が着メロとかワンセグとか折りたたみ機能とかたくさんのボタンなどいろんな機能を付けて競い合っていたときに、Steve Jobsはそんなものは一切付けずに、テンキーすらないiPhoneを発表しました。最近ではイヤフォン・ジャックも無くして、充電もワイヤレスでできるようになりました。様々な新しい機能を付け加えていくことが技術開発あるなら、それらを取り除いていくことは「イノベーション」「創造的破壊」です。

ナノフォトンの製品のデザイン・コンセプトは「Simplity」による「Sophistication」です。無駄のない洗練さがこだわりです。すべてのパーツを一つの装置に組み込んで、余計なものは付け足さず無駄な空間を一切許さないナノフォトンのデザインは機能美を生みだします。色は白です。業界でダントツの最小・最軽量を誇ります。「IoT」という言葉が生まれる以前にケーブルやボタンを無くして、IoT化+自動化しました[3]。サンプルを装置にセットすれば、あとは家からあるいはバーのカウンターからネットで操作して実験できるのです。

レオナルド・ダビンチは「Simplicity is the Ultimate Sophistication」と言いました。究極の「洗練」とは、余計なものをすべて取り除いた「機能美」です。

これ以上、余計な話は無用です。ホントは電線マンについても語りたかったけど、、、。

2018年5月14日
ナノフォトン株式会社
代表取締役会長  河田 聡

[1]河田聡「桜並木と電線とTransdisciplinarity」学術月報、2000年7月号。
[2]大越孝敬「なぜ日本の街は電柱電線だらけなのか」電子情報通信学会誌、360、90、1993。ほか。
[3]ナノフォトン「顕微鏡、ネットで操作」日刊工業新聞7面記事、2012年9月6日。