会長室からChairmans Office

第7回会長室から
『Google Mapsの正しい使い方』


Google Mapによれば、ナノフォトンの大阪にあるR&Dセンターからナノフォトンの東京ショールームまで、今なら所要時間が3時間44分です。ルートは、阪大本部前まで歩いてそこからバスでJR茨木駅。京都まで快速に乗って、新幹線で品川駅下車。品川からは山手線で新橋。そこから10分歩いて、東京ショールームに着きます。時刻表も要らず、ルートに悩む必要もありません。最短時間、最短距離です。

もっとゆっくりと旅がしたいときは、「ゆっくり」と「旅」をGoogleに打ち込むと,たくさんのページがヒットします。このときもGoogleが答えを見つけてくれます。

自由が足りない気がします。私の生きる道筋がGoogleに管理されているかのようです。便利ですが、自らの力で発見や発明を生みだすことができないのです。思考や思案に欠如して、工夫や努力をする力がなくなってしまいそうです。そういえば、最近、漢字もすぐに出てこなくなってきました。暗算も下手になりました。平成と西暦の換算もできません。

私は、Google Mapsに従わずにあえて遠回りしたり、裏通りを歩きます。iPhoneの画面ばかりを見て歩いていると、街並みや人々の表情や季節の変化を見逃します。もっと、気まぐれに街を歩きたいのです。そうしたら、日々新しい発見があります。これまで人通りのなかった路地が混雑していたら、人気のお店がオープンしたのかもしれません。あるいは、何か事件が起きたのかもしれません。雨が降ると、人の流れが変わります。雨に濡れないルートがあるのでしょう。Google Mapsから解放されると、いろんな発見や経験ができます。横道にそれたり遠回りをしましょう。それでも最後には、Google Mapsが目的地へ案内してくれます。安心して経路の選択に失敗しましょう。

これが私の正しいGoogle Mapsの使い方です。

Google ScholarやWeb of Scienceは引用件数の多い順に論文を教えてくれます。それらに従って論文を読んでいたら他の研究者と同じ道を歩いていることになります。あなただけのお気に入りの論文を発見することができません。わざと引用件数の少ない論文を読みましょう。引用件数の少ない論文は、他の人がその論文の魅力に気づいていないからかもしれません。本当に優れた科学者の研究は、一般の科学者にははるか先進的過ぎて、すぐに評価されないことがあります。引用件数やインパクトファクターに頼って雑誌を選んだり論文を選んでいると、画期的な発見のチャンスを逃します。10年、20年経つうちに引用件数が増えて、その論文も著者も有名になるかもしれません。引用件数や雑誌名で最新の論文を読むことは、Google Mapsの指示通りに道を歩くようなことです。

最短距離を教えてもらうのではなく、自分の気の向くまま遠回りをして失敗したり間違えたりして進むことは、「ひと」が生きているということの証です。 

ナノフォトンの経営でも失敗や間違いや遠回りを経験します。でも、そのことが新しい発見や発明を生むのです。失敗や間違いや遠回りは、ひとの成長にとって必要なプロセスなんです。失敗はまさに成功の母です。会社も「ひと」と同じです。生きて成長を続けます。 

2018年1月9日
ナノフォトン株式会社
代表取締役会長  河田 聡