「制限速度が60キロのところを67~8キロで走ってしまった」なんて、不謹慎にも本音をさらりと言ってしまったものだから、東横イン社長はマスコミの格好の攻撃の的となりました。「金で何でも買える」といったホリエモンと同じで、余計な一言で社会から抹殺されます。まさに唇寒しです。それなのに、私は相変わらず余計な一言が止まらず、今月はなんとついに「東横イン社長あっぱれ」論を展開します。
東横インは、料金がとても安いのに清潔で便利なビジネスホテルとして、若者やサラリーマンに圧倒的な人気があります。レストランや宴会場など、ビジネスマンの宿泊にとって”余計”なものは一切設けず(年に1回しか使わない身障者用の部屋も”余計”と考えたのでしょう)、そのかわりに一般のホテルでは割高なはずの自動販売機のジュースは全部100円、ビールなどもコンビニ価格だそうです。ビジネスホテルなのに新聞が無料で、レストランがない代わりに朝のおにぎり・味噌汁かパン・コーヒーがやはり無料で提供されます。ほとんどが駅前の便利なところにあり(だから駐車場が要らないんです!)、理研のある和光市駅前にも昨年、オープンしましたが、最初3950円という価格に皆びっくりしました。研究室の学生達にも東横インは大好評のようです。高速インターネットが全室に無料で用意されており、ロビーでも無線LANが無料、さらには無料電話もあるとか。このホテルがあることによって、実にたくさんの人が助かっているのです。東横インは若いサラリーマンや旅行者の味方であり、社会に役立つビジネスホテルです。
さらに、このホテルの素晴らしいところは、女性を多く雇用していることです。社員・パートの実に95%が女性だそうです。支配人もフロントもみな女性、取締役も5人が女性です。もともと旅館は女将と仲居さんという女性が経営や運営をする業種であり、ホテル業もまた女性の方が優れているのでしょう。今や全国に展開しているので、地方に住む女性に仕事を提供し、女性の雇用促進に大いに貢献しています。
もちろん東横インが身障者用駐車場や身障者用の客室を改造したことは、全くよろしくないことで、直ちに改善するべきでしょう。でも、この会社が潰れるようなことがあったら、今後は顧客は駅前にある便利で清潔で安いホテルに泊まることができなくなり、女性支配人や女性従業員は職を失います。
なぜ、東横インが建築確認後に駐車場を潰したのか。建築確認後には、改造しても検査を受けなくてよいからです。このホテルに限らず、これは日本の建築行政の常識です。ホテルもマンションも個人住宅でも、建築確認後に建て増しの改造をしている建物はそこら中にたくさんあります。役所もそれを知っていながら、黙認をしています。だから、東横インの社長が最初の記者会見で67,8キロと言ったのです。制限速度を10キロ超えた程度だと、警察は見逃してくれるのです。条例ができる以前に建てられた建物にも条例は適用されません。姉歯設計事務所のマンションやホテルも、最近の建物だからこそ違法建築であり、昔の建物ならいまの基準をクリアしていなくても役所は問題としないのです。姫路城が震度5で倒れるかもしれないという話が、新聞記事に載りました。姫路城を例に出すまでもなく、今の耐震基準を満たしていない建物は日本全国至ることろにあることでしょう。
建築確認後の改造は届け出が要らないので、東横インのケースは道義的にはひどい話であっても、法的には見過ごされたのでしょう。日本の法文化とはおよそこのようなもので、普段は67キロで走っていても見逃しておいて、誰かを捕まえたい時にだけ厳密に60キロの制限速度を適用して、その人を捕らえます。日本のパトカーは、渋滞する道路で車線をふさぐ路上駐車を注意すらせず、警察の前にすら路上駐車が見受けられます。このような日本の法律を形骸化させている日本文化の象徴は、憲法9条です。自衛隊はどう解釈しても明らかに「戦力不保持」を定めた憲法に違反しているのに、50年間、解釈問題だとして許されているのです。
最近のテレビで見ていて一番不愉快なのは、マスコミの記者さん達です。まるで自分が警察官か正義の味方かの如く相手を攻撃しますが(会見が終わっても車にまで詰め寄って「逃げるのですか」と叫ぶ報道関係者もおられます)、その記者が勤める新聞社の本社や支局の玄関には、来客用や障害者用の駐車場はありません。新聞社のホームページには駐車場はありませんとはっきり書かれており、障害者には大変不便です。要するに、新聞社も東横インと同じことをしているのです。ただし、東横インは必ず駅前にあるため、それほど困りません。
障害者用駐車場に関して最もひどいのは、JRの駅だと思います。以前、車椅子を使うアメリカの友人(80歳の女性)を新大阪駅に送っていったとき、新大阪駅前には障害者者用の駐車スペースはなく(事前に電話で確認しましたが、ありませんと言うだけで、場所の確保はしてくれませんでした)、駅周辺は駐車違反で溢れ、一時的にすら車を停めることができずに大変困りました。また、市民病院には複数台分の身障者用の駐車スペースはあるのですが、そこはいつも身障者ではない人の車で占められています。大学の建物前の車椅子専用のスロープの前はいつも自転車がたくさん並んでいて、車椅子で通っていた私の同僚の中村教授はそこを通ることができずに、苦労していました。身障者用駐車場に健常者が平然と駐車をし、それを警察官もマスコミもまるで咎めないのに、東横イン社長に対しては社会もマスコミも非難囂々です。
こう考えると、東横インの社長だけが攻められているのは、彼の違法スレスの行為や障害者に対する彼の態度だけが理由ではないように思えてきます。ホリエモンも東横イン社長も成功者になったことが、人のねたみを呼び、徹底攻撃をされた理由かもしれません。ホリエモンが株でマネーゲームをして会社を大きくしてけしからん、と言うのも不思議な話です。株式を市場で買う株主は、働かず楽して金を儲けようとしている人たちです。株の売買は、マネーゲームに他ならないと思います。株で儲けることがいけなくなったら、株式に投資する人はいなくなり、株式市場は成り立たなくなります。ライブドアの株で損をした人たちが恨むのは、堀江社長ではなく、むしろ彼を告発した東京地検でしょう。東京地検がライブドアを抜き打ち的に家宅捜査し堀江氏を予想外にも逮捕した結果、市場の株価は暴落し、不自然なマネーゲームを誘発しました。株主が互いに納得した上でのマネーゲーム(株の売買)の中に、いきなり地検が出てきて、株価が著しく変動させることが、日本の社会や株主や株式市場に対する貢献だとは思いにくいことです。歩行者もいないし車も走っていない見通しの良い道路に、低い制限速度を設定して、隠れてねずみ取りをする日本の警察と同じ類の傲慢さを、検察に感じます。
見せしめ、ねらい打ち、そして道義と法の混同が、日本社会の根底にあります。ライブドアが潰れると社員は仕事を失い、株主はお金を失い、顧客はサービスを失います。ホリエモンがけしからんという論理・正義感だけで、ライブドアという会社を潰してしまう地検とマスコミには、戦前に人と違ったことをしたりちょっとした失敗をしでかした人を「非国民」として社会から抹殺した当時の憲兵・マスコミの傲慢さに通じるものを感じます。既得権益を持った恵まれた家に生まれたのではなく、無一文から頑張って働いて金持ちになった人を、アメリカでは賞賛し(先月のメッセージで述べたとおり、スタンフォード大学は大学を卒業していないスティーブ・ジョブスに、卒業式のスピーチを頼みました)、日本では突然の家宅捜査をし逮捕し身柄を拘束します。
この国では、成功することは失敗なのです。民主党は、相手のミスにつけ込んで人や政党攻撃するのではなく、自分達の政策を示して論議をして欲しいものです。民主党は、守旧派・既得権益者の側に立つのではなく、少々乱暴であったり失敗があっても挑戦する若者の側に立って欲しい、と思います。リクルート事件のような賄賂や税金の乱用ではなく、このふたつの事件は民事事件です。国会で、国会議員が私企業や個人を攻撃することは、できる限り慎むべきです。はしゃがないで欲しいと思います。民主党に知って欲しいことは、東横インがなければ、地方都市の駅前に清潔で便利で安いビジネスホテルはなく、若いビジネスマンや学生は、不便を強いられるということです。ホリエモンが近鉄買収の名乗りを上げなければ、日本の野球はきっと巨人中心の1リーグ制になって、つまらなくなってしまっていたはずです。ホリエモンのおかげで漁夫の利を得て野球チームを手に入れた楽天の社長にも、ホリエモンが窮地に追い込まれたいまこそ、彼をサポートしてあげて欲しいものです。そうすれば、もう少し人気が上がることでしょう。
私は、証券法というものがどんな法律で、堀江氏の違反が証券法と照らし合わせてどの程度悪質なのか、あるいはどの企業でもある程度やっていることなのか、まるで分かりません。改築や建築確認などの建築に関する条例の詳細と罰則などについても、全く知りません。ただ、被疑者が認めていない容疑や謝罪している容疑に対して、検察は被疑者の人権を守るどころか、検察しか知り得ないはずの情報をマスコミにリークし、マスコミはその容疑をすでに事実かの如く報道して、一体になって世論を作り上げていく様子に、戦前のマスコミが国家と共に戦争への世論形成をしていった過程と同じものを感じ、恐怖を感じています。
私は東横インに泊まったことはありませんし、ライブドアの株も持ったこともありません。障害者の駐車スペースや障害者用の部屋を壊すことにも、全く賛成しません。しかし、今の風潮の中では東横イン社長を応援したいと思います。社長のウソ泣き(?)記者会見は、傲慢で思い上がったマスコミや一般社会に対する、皮肉あふれる見事なレジスタンス・ショーだったと思います。あっぱれ、西田社長!SK