2007年11月のメッセージ
みなさん、ありがとう

思いもかけないことに今年の秋、紫綬褒章を頂戴しました。11月16日にホテルオークラで渡海文部科学大臣から直接に褒賞と賞状と戴き、その後受賞者は褒賞をモーニングにつけて皇居に伺い、皇居内の春秋の間で天皇陛下に拝謁の栄に浴しました。

私は、「おめでとう」より「ありがとう」と言われるようになりたい、とあちこちの講演会で語り、今月のメッセージでも2002年12月にそのことを書いています。それで、私をよく知っている人は「おめでとうって言ってもいいですか」って気を使ってくれます。毒舌家の私ですが、今回は素直に、これまでの研究を認めていただいて素直に嬉しく思っています。私のわがままな科学研究に対する皆さんの長年の辛抱と応援に「ありがとうございます」。皆さんの今回のたくさんのお祝いの言葉に「ありがとうございます」。お世話になったたくさんの人たち、友人、同僚、研究室の仲間や卒業生にも、自分のことのように喜んでいただいて「本当にありがとうございます」。

戴いた賞状には「日本国天皇は河田聡に多年学術の分野においてよく務め斯界の発展に寄与したことについて紫綬褒章を授与する」と書かれています。40年ぶりに君が代を斉唱しましたが、ちゃんと憶えていました。10年前に一緒に特定研究を立ち上げた九大名誉教授の入江先生も受賞され、京大名誉教授の佐和隆光先生や作曲家の三枝成彰さん、富司純子さん、五木ひろしさん、漫画家の弘兼憲史さん等々共に受賞した有名な先生や芸能人の方々と、一日ご一緒しました。皇居への行き帰りは、何度も点呼を受けて皆でバスに一緒に乗って行きました。皆初めてのことに興奮してわいわいがやがや、まるで修学旅行のよう。宮殿の中でも周りをきょろきょろ、まるでお上りさんです。天皇陛下がお見えになるとみなすっかり緊張し、お年寄りは感激の涙です。陛下からお言葉を戴き、列を回って微笑みながらひとりずつに会釈をいただいて、受賞者全員光栄の限りです。ミックジャガーのコンサートを前から5列目で見たときもすごく感激しましたが、これは比較をしてはいけません、ごめんなさい。

なぜ紫綬褒章が「紫」なのか、人から聞かれます。調べてみましたが分かりませんでした。人命救助は「紅」、私財の寄付は「紺」など全部で6色あります。でも、光科学の研究者としては「紫」が一番嬉しいです。虹の7色の順番「赤橙黄緑青蘭紫」の中で紫は最後です。これは紫が一番エネルギーが高い光、一番振動数の高い光だからです。こじつけだけれど、私としてはこれで納得です。いずれにしても、「紫」のリボン(すなわち紫綬)にメダル(褒賞)が吊り下げて、胸に付けます。だから「授」ではなく「綬」の漢字が使われます。上の写真をご覧下さい。これを実際に胸に付ける機会は今回の拝謁の時以外は、まずないだろうと思います。貴重な経験を指せていただきました。思いがけない受賞で多くの人たちにたくさんのお祝いを戴き、日頃憎まれ口ばかりの私も今回ばかりは神妙です。

ところで、写真の右に移っているどら焼きのようなお菓子は、紫綬褒章の大きさを示すために比較に示したのではありません。というか、結構大きいどら焼きです。これは天皇陛下からのお土産です。菊の御紋の焼き印が付いていて、とても口にするのはおそれおおいのですが、残しておくと賞味期限が切れそうなので、一日だけ眺めてかぶりつきました。皮は普通のどら焼きよりもかなり固め、中は赤身のあるしっかりとしたこしあんです。材料、製造日、製造場所などは全く不明です。「吉兆」も但馬だとか地鶏とかいろいろ言わずに、「赤福」も製造日など細かく書かなければよかったのに、、、。

あ、またオチを付けようとしている、すみません。今月のメッセージはオチは要らないのです。これからも、ますます自由に華やかに新しい科学創りを目指して、研究と教育に貢献していきたいと思います。皆さん、今回は本当に「ありがとうございました」。SK