拡散反射ラマン分光法による結晶多形の定量評価

ラマン分光法は、錠剤中における原薬や添加剤の分布の観察、また、それぞれの含有量の推定が非破壊でできる有力な手法です。特に結晶多形の識別や、水和物・無水物の識別、さらには結晶・非晶質の識別なども可能であるため、安定性試験前後における原薬の結晶多形や擬似多形転移の確認、非晶質製剤における原薬の結晶化の検出などにも有効です。これらの定量を行う場合、これまでラマンイメージング像から画像解析の手法により各成分比を求めることができました(図1) が、特に含量の少ない原薬の定量を精度よく行うためには、広い領域のイメージングが必要になり、長い測定時間を要するという課題がありました。

▼図1:錠剤のラマンイメージとAPI Form I、Form II の面積比算出含有値

:マンニトール
:セルロース
:デンプン
:API Form I ( 調製値として90% 含有)
:API Form II ( 調製値として10% 含有)

面積比解析算出値
:API FormI 90.9%
:API Form II 9.1%

そこで、広い領域の成分情報を短時間で取得し、成分の定量評価ができることを特長とする拡散反射ラマン分光による定量評価の方法を開発しました。本法の光学系イメージを図2 に示します。測定は錠剤にライン状にしたレーザーを照射しながらビームスキャンによって錠剤表面の6mm×6mmの領域、さらに拡散反射効果により内部約0.5mm の深さまでの情報、つまり体積領域にして約18mm³ のラマン散乱光を分光測定します。この測定機能を用いると、たとえば、原薬において異なる結晶形が含まれている場合、その比率や結晶形の転移量を数値で把握することが可能になります。

今回は、2種類の異なる結晶多形を有する原薬が異なる比率で含まれるモデル錠剤を用い、各結晶多形の定量評価の検討を行いました。モデル錠剤は総重量に対して約6%の原薬を含み、Form I からForm II に結晶形が転移するという仮定のもと、表1 の含有比のもので評価を行いました。

Form IForm II
錠剤199%1%
錠剤295%5%
錠剤390%10%
錠剤485%15%
錠剤550%50%

検量線の作成

定量解析には最小二乗法による線形重回帰分析法(CLS:Classical Least Squares) を使用し、 初期値として結晶多形の原薬とプラセボ錠剤の一次微分スペクトルを用いました。各結晶多形の CLS によって得られた係数を用いて原薬全体に対する Form II の割合を算出し、原薬総質量に対する Form II の質量比との関係を図3 に示しました。

▲図3:原薬総量に対するForm II の質量比とCLS 算出比率の関係

成分比の定量分析~最小二乗法による線形重回帰分析法(CLS)

フィッティング関数には、
y = a { x / (x + γ(1-x)) } (a,γ:係数)
を用いました。 得られたフィッティング式を検量線として用いることで検体に含まれるForm I、Form II の含有量が算出できます。

おわりに

本機能により、非破壊で錠剤中の結晶多形や擬似多形転移の定量値や、非晶質原薬の再結晶化の定量値が検量線より求められます。また錠剤の広い面を一度に測定できるため、錠剤における成分のわずかな偏りによる影響や、錠剤設置位置のわずかなズレによる影響など、測定部位による定量値のばらつきを抑えることができます。測定時間も短く、 錠剤両面を測定することでより精度の良い定量結果を得ることが可能となります。