ラマンイメージングを用いた錠剤成分均一性の定量評価

ラマンイメージを定量的に評価する手法として、 CLSなどの多变量解析や粒径解析などが利用されています。一方で、成分の分散性を定量的に評価する手法はあまり知られていません。そこで当社は、区画分割を用いた解析と、エッジ検出を用いた解析の二つの定量評価手法を考案しました。

錠剤中における原藥、添加剂の分布の偏りや粒子径の解析は、 製剤設計や製造工程における条件の最適化において重要です。また、製品において不具合が生じた場合の原因解明につながることもあります。ケミ力ルイメージング技術を用いることで錠剤中成分の可視化が可能ですが、その中でもラマン分光イメージングは、製剤成分の同定ができるほか、結晶形の識别や結晶性の評価ができるため、原薬の結晶形転移やアモルファス製剤における原薬の再結晶化の検出にも有効です。また解析においても、ラマンスべクトルはピーク形状がシャープであるため、成分特有のピークが選択しやすく信頼性の高いイメ— ジの作成が可能です。

このアプリケーションノートでは、ナノフオトン社製広視野ラマンスコ-プ RAMANviewを用いて、錠剤成分均一性の定量評価手法の検討を行いました。

ラマンイメージを応用した解析

ラマンイメージから二値化イメージを作成することで、以下のような項目を数值化することができます。

粒径解析

二値化イメージの各粒子形状を楕円で近似することで、粒子径が数値化できます。ヒストグラムを作成することにより、粒子径のばらつきを評価することができます(図1)。

   ラマンイメージ     

  二値化イメージ   

    粒径解析結果  

▲図1: 錠剤に含まれる APIの粒径解析

ラマンイメージを二値化し、各粒子形状を楕円で近似して、さまざまな統計情報を取得できます。

成分の含有量

イメージング領域に占める、各成分の面積比を算出することで、成分の含有量を推定することができます(図2)。

添加剤 原薬 原薬の結晶多形

       面積比解析結果

▲図2: 錠剤表面における成分の分布と割合の評価

錠剤成分均一性についての定量評価の試み

一般的に原薬や添加剤の分散状態は、二値化イメージの画像処理を行って得られた粒子個数、個々の粒子面積、粒子径、重心間距離などのばらつきで評価されます。しかし錠剤のように、大小さまざまな粒子が混在し、かつ分布の偏りが極端に大きい場合もあり得るサンプルにおいては、シンプルに分散状態を数値化し、サンプル間において比較を行うことは簡単ではありません。このアプリケーションノートでは以下の方法を用いて、分散状態の数値化を試みました。

区画分割を用いた解析

イメージング領域を格子状に分割し、錠剤内の各区画に含まれる粒子数および面積を求め、これらの数値のばらつきを分散状態の指標としました。

イメージング領域を16×16分割し、粒子の偏りの指標として锭剤内の区画について、標凖偏差を求めました。標凖偏差を 用いることで、区画に対する分散性を定量的に評価することができます。標凖偏差の値が小さいほど成分が均等に分散しており、値が大きくなるほど成分が偏って分散していると評価できます(図 3)。粒子の個数が少ない場合には、区画の分割数を減らすことで、定量評価が行えます。

▲図3:錠剤の区間分割と区間内の標準偏差              








全粒子数:124
標辈偏差:
各区画の粒子数 0.83
各区画の面積        9.27

エッジ検出を用いた解析

イメージング領域の錠剤の重心から側面方向に向けて、二値化イメージにおけるエッジ(明るさが鋭敏に变化する箇所)の数を求めました(図4)。エッジ数は粒子とその他の領域の境の数に相当します。0°から 360°におけるエッジ数の標凖偏差は3.04であり、この値が小さいほど均一に分散していると評価できます。

これらの方法を用いることにより、複数のサンプ儿間で分散状態の比較が可能となります。

▲図4:確度に対するエッジ数のプロット                                                                               

おわりに

分散状態のようなこれまで人の目で判断する感覚的な情報を数値化することで、サンプル間の客観的な比較が容易になるだけでなく、将来的には品質予測のための多变量モデリング構築 ヘの適用などに応用を広げることができます。今後、定量値の精度を上げるため、様々な分散状態のモデルを作成し、より良い解析方法を模索していきます。