■: 単層グラフェン
■: 二層グラフェン
■: 三層グラフェン
■: 四層グラフェン
光源波長 | 532 nm |
対物レンズ | 100倍 (NA=0.90) |
スペクトル数 | 67,600 (400×169) |
測定時間 | 5分30秒 |
単層・多層グラフェンの分布をわずか5分でイメージング
上の画像は、熱酸化したシリコン基板上に分布するグラフェン薄膜をラマンイメージングしたものです。炭素1原子のシートである単層グラフェンと、二層、三層、四層の多層グラフェンが、それぞれどのように分布しているかを、わずか数分の測定時間と350nmという高い空間分解能でイメージングしています。
■測定に用いたサンプルについて
本測定で観察しているサンプルは、グラファイト(黒鉛)結晶を粘着テープを用いて劈開し、シリコン基板上に転写したものです。この方法でシリコン基板上に形成されるグラフェンの層数はまったくランダムであり、ある一定のSiO2膜厚を有するシリコン基板上では、基板上にランダムに形成されたグラフェンを光学顕微鏡によって確認することができます。しかしながら、それが何層のグラフェンなのかを厳密に識別することは困難です(右図)。
※このサンプルは物質・材料研究機構の津谷大樹様よりご提供頂きました。
参考文献
K.S. Novoselov et al., Science 306, 666 (2004).
K.S. Novoselov et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 102, 10451 (2005).
G/G’比によるグラフェンレイヤーの判別
本測定では、グラフェンのラマンスペクトルの中にある、GバンドとG’バンドの強度比を調べることで、グラフェンレイヤーの層数を識別しています(下図)。単層グラフェンでは、G’バンドに非常に鋭く強いピークが現れます。また、Gバンドにおいては二層、三層と層数が増えるにしたがってピーク強度は強くなっていきます。
従来の顕微ラマン装置では、ステージを動かしながら1点1点ラマン光を検出するラマンマッピング法でグラフェンの分布観察を行います。しかしこの方法では、広範囲でのラマン信号を短時間に取ることができないため、単層を含むグラフェンレイヤーを効率的に識別することはきわめて困難です。また、1点あたりの励起光強度が高いため、試料を焼いてしまうこともあります。
ライン照明を採用しているRAMANtouch/RAMANforceは、広い領域を一度に照射できるため、圧倒的なスピードでグラフェンレイヤーを識別することができ、かつ試料各点へのダメージを最小限に抑えることができます。また、RAMANtouch/RAMANforceは350nmという高い空間分解能を備えており、より高精細なラマンイメージングが可能です。
(参考)ラマン分光法を用いたグラフェンレイヤーの判別方法
本測定では、ラマンスペクトル内のGバンドとG’バンドの強度比(G/G’)でグラフェンレイヤーを識別しました。このG/G’は単層でおよそ0.3程度で、5層程度まではリニアに値が増加し、6層以上になると飽和します。単層グラフェンではG’バンドのピーク位置はおよそ2678.8±1.0cm-1の位置に現れますが、2層以上になると、G’バンドのピーク位置は高波数側にシフトし、半値幅も広がっていきます。また単層グラフェンのG’バンドはSingle Lorentzianでフィッティングできますが、2層以上になると複数のサブピークの和で構成されています。2層グラフェンのG’バンドの低波数側の裾野の波形が少しゆがんでいるのはそのためです。このように、グラフェンのラマンスペクトルには、その層数を示唆する有用な情報がたくさん含まれています。
参考文献
D. Graf et al., Nano Letters. 7, 238 (2007).
(参考)反射分光による超高速イメージング
ニッケル触媒上のグラフェンなど通常のラマンイメージングでは時間のかかる試料もあります。 その場合、反射分光を用いれば、わずか1分でグラフェンの層数分布をイメージングできます。 また、観察波長を狭帯域化することにより、 従来の光学顕微鏡やラマンイメージで見落としていた情報も可視化します。