不織布繊維の非破壊検査

なぜ不織布用繊維をラマン顕微鏡で分析するのか

繊維を織ったり編んだりせず、絡み合わせることでシート状に成形した布を不織布と呼びます。不織布は、複数の繊維を容易に組み合わせることかできるため、使用目的に合わせて機能と形状を自由に設計できる点が最大の特徴です。衣料やインテリア、自動車、エネルギー、航空宇宙産業など幅広い分野で活用されています。

不織布には様々な製造方法があり、繊維を機械的に絡ませたり、高圧水流を噴射して繊維同士を絡ませたり、熱融着させて成形する手法が知られています。熱融着に用いられる繊維は、鉛筆のように芯部と鞘部とで異なる樹脂を使い分けた芯鞘構造(スキンコア構造)を有しており、 個々の樹脂の3次元構造が不織布の機能を大きく左右します。そのため、繊維内部における成分分布を詳細に観察する手法が求められます。

樹脂成分の識別に広く用いられている赤外分光法によるマッピングでは、非破壊で樹脂内部を測定することはできません。そのため、通常は断面の切片を作製、あるいは樹脂包埋を用いた高精度な断面試料を作製する必要が生じます。一方、レーザーラマン顕微鏡では、焦点の合った深さ位置のみの信号を検出する共焦点光学系(コンフォーカル光学系)が用いられているため、透明な試料であれば、試料内部にレーザーを集光することで、非破壊で試料内部のスペクトルが得られます。この特徴を生かして、複合樹脂を深さ方向にラマンイメージングすることで、樹脂内部における成分分布を非破壊で観察することが可能です。

ラマンイメージングで見る芯鞘構造

下の図は、1 本の繊維が芯の部分と鞘の部分の二層構造になっている芯鞘繊維を、深さ方向にラマンイメージングした結果です。

光源波長532 nmスペクトル数24,400 (400×61)
対物レンズ100倍 (NA=1.40)測定時間5分30秒
各部位のラマンスペクトル

繊維の断層形状は円形であり、芯部と鞘部のラマンスペクトルから、芯の部分は PET(ポリエチレンテレフタレート)、鞘の部分は PE(ポリエチレン)であることが分かりました。また、 芯の部分には白色顔料としてアナターゼ型の TiO2(酸化チタン)が混ざっていることも分かりました。前述の顕微赤外分析では、平面方向の空間分解能が高いATR法を用いても、数μm 程度の細かい成分の分布を捉えた精細なイメージを作成することはできません。また、顕微赤外分光法を用いて、このTiO2を検出しようとした場合、標準のMCT検出器(HgCdTe検出器)では低波数側の感度が低いため、TiO2 特有のピークが確認できない可能性があります。金属酸化物のように、低波数側にピークを有する物質の同定が可能な点も、ラマン分光法のメリットの一つです。

芯鞘繊維の 3 次元ラマンイメージング

ナノフォトン製レーザーラマン顕微鏡 RAMANtouch/RAMANforce には、3D(XYZ) ラマンイメージング機能が搭載されています。この機能は、焦点面の高さを変えながら、複数のXYラマンイメージを取得し、それらを3次元データに再構築して表示する機能です。先ほどの芯鞘繊維の構造を、3Dラマンイメージング測定した結果を次に示します。