全固体電池とラマン分光イメージング分析

全固体電池の分野において、ラマン分光法は組成や結晶状態などの評価に利用されています。

ラマンイメージングでは、サブミクロンの空間分解能で電池の構成成分の分布や状態を可視化することが可能で、ユニークな情報が得られる手法として注目されています。

イオンミリングで加工した正極断面のラマンイメージ (充電前)
イオンミリングで加工した正極断面のラマンイメージ (初回充電後)

全固体電池とは

全固体電池とは、電解質が固体の二次電池です。
動作原理はリチウムイオン電池(LIB)に似ていますが、正極-負極間の短絡を防ぐ役割を担うセパレータが不要、という特徴を持ち安全性が飛躍的に高まっています。

LIBと比較した全固体電池のメリットとしては、

①電極間の短絡(発火源)と、電解液として使用される有機溶剤(引火)の問題がないため、安全性が高い。
②LIBの劣化の原因の一つである、Li+が電解液を移動する際に生じる副反応が起きにくいため劣化しにくい。
③高温での電解液の分解及び一般にオレフィン系素材であるセパレータの溶融がなく作動温度範囲が広い。
④高電圧下でも正極の酸化、電解液の分解が起きないため、急速充電が期待できる。
⑤ハンドリングがよい。

などが上げられます。

一方で、電解質中のLi+の移動抵抗が大きいことや、液体よりも電解質と電極の界面抵抗が大きいことなどが課題とされてきました。しかしここ数年の様々なブレイクスルーにより、実用化の具体的スケジュールが発表されるなど、特に電気自動車の分野で期待が高まっています。

ラマン分光測定のメリット

 結晶性や結晶状態の評価で有用なラマン分光法は、電池材料については、正極の活物質や負極に用いられる炭素材料等の評価に使われます。ラマン分光法は可視光を使うため、結晶性評価で一般的に用いられるX線回折法(XRD)よりも2桁程小さい、サブミクロン程度までスポットサイズを絞ることが可能です。

また、ラマンピークの形状から、わずかな変化も簡単に評価でき、更にイメージングと組み合わせると空間的情報も得られる、という利点があります。

硫化物系全固体電池の評価実例

 図2は、硫化物系固体電解質(Li2S-P2S5)を用いた全固体電池の正極で検出されたラマンスペクトルの一例です。
正極の活物質には、コバルト酸リチウム(LiCoO2)が用いられています。

全固体電池もLIBと同様に、充放電によりLi+が正極活物質を出入りし、カーボンなどの負極材料との間を行き来します。図2ではLiCoO2の初期状態(a)と充電状態(b)のラマンスペクトルを比較することができます。

LiCoO2のA1g(Co-O伸縮振動)及びEg(O-Co-O変角振動)に帰属されるピーク位置が、充電によるLi+の動きで結晶の格子距離が変わることにより、低波数側に少しシフトしているのが確認できます。
また、生成物であるCo3O4と固体電解質に含まれるPS43-は、それぞれ異なる位置にピークが出現していて、他の成分と区別できます。


 充電前の初期状態のLiCoO2ピーク位置を赤で、充電後のシフトしたピーク位置を青で識別して面分析を行うと、充電前後の成分分布を表すラマンイメージが図3のように得られました。緑色で示したのは固体電解質( PS43- )の分布で、正極層では LiCoO2の中に固体電解質が分散している様子がわかります(図3-(B))。

これに対して初回充電後では、多くのLiCoO2はピーク位置が少しシフトした青で示される状態に変化したことがわかります(図3-(D))。しかしその一方でピーク位置がシフトしない、すなわち変化しないまたは変化量が乏しい活物質も見受けられます。更に、Li+が抜けて更に結晶構造そのものが変わってしまったCo3O4が生成した箇所も認められます。LiCoO2からCo3O4への変化は電池反応において不可逆的であり、放電後もLiCoO2には戻らないため、正極活物質の一部が充放電反応には関与できない物質に変化してしまったことを意味します。

 このように、ラマン分光イメージングでは、結晶の状態、構造変化だけでなく物質の同定やそれらの分布状態まで可視化できます。レーザーラマン顕微鏡RAMANtouchは、高い空間分解能と独自のライン照明によるスピードイメージング性能により、これらのユニークな情報をハイパフォーマンスで提供します。

(詳細につきましては、M. Otoyama et al. / J. Power Sources 302 (2016) 419-425を参照下さい)

※本紙に掲載した研究については、大阪府立大学 大学院工学研究科 応用化学分野の
辰巳砂昌弘教授および林晃敏教授より、サンプル提供頂き、協力のもと測定を行いました。