リチウムイオン二次電池の一般的な分析手法

リチウムイオン電池の性能評価として出力電圧や電気容量などの電気的特性の測定はもちろんのこと、その特性の違いを知るために様々な観点から各種分析手法が用いられます。 まず材料面から見ると、主な材料としては、金属酸化物(正極活物質)、炭素材(負極活物質、導電助剤)、有機溶剤(電解液)が挙げられます。金属酸化物は金属不純物の有無、元素比、結晶構造などが分析対象となり、元素分析や結晶構造解析が行われます。炭素材については結晶性や結晶構造が調べられますが、一般的な材料と比べて分析手法が限られ、XRDやラマン分光が頼りになります。特にラマン分光法は特別な前処理を必要とせずに、粉末でもペーストでも簡便に測定できる点が優れています。また、炭素材の均質性をイメージングで評価することもできます。有機溶剤についてはGC-MSやイオンクロマトグラフィーで、成分比や不純物の量を調べたり、水分量を確認したりします。 

次に電池を構成している部材の観点で見ると、大きく正極、負極、セパレータおよび電解液に分けられます。セパレータはオレフィン系材料から作られた多孔性フィルムで、電子顕微鏡で細孔の状態を観察したり、熱分析で素材を評価したりします。電極は電子顕微鏡で形態観察、XRDでの結晶構造評価やラマンイメージングを用いた電極表面の組成分布観察が行われます。

 

部材評価目的分析手法
正極組成分析、結晶形、不純物の状態、粒子の表面状態、分散状態ICP発光分析、X線回折法、電子線マイクロアナライザ(EPMA)、TEM/TEM-EDS、
蛍光X線分析、ラマン分光法/ラマンイメージング
負極組成分析、炭素材の種類、分散状態X線回折法、蛍光X線分析、ラマン分光法/ラマンイメージング
バインダーバインダー種の分析、分散状態赤外分光法、ラマン分光法、熱分解GC-MS
電解液組成分析、電解液の溶媒の種類の比赤外分光法、イオンクロマトグラフィー、ICP発光分析、GC-MS
セパレータ組成分析、構造分析示差走査熱量測定(DSC)、SEM

サイズオーダーから見たリチウムイオン電池の分析手法

物質の状態を観察するために用いられる手法とその空間分解能

観察対象分析手法その他得られる情報空間分解能
結晶構造X線回折格子間距離~1mm
ラマン分光法結晶構造、結晶性、それらの分布状態1μm以下
固体NMRバルク情報
化学結合FT-IR配向、その分布状態数10μm程度
ラマン分光法結晶性、配向、それらの分布状態1μm以下
元素蛍光X線分析分布状態0.1µm~10µm
EPMA分布状態10nm
SEM-EDX表面形態、組成、それらの分布状態1µm(形態観察、元素コントラストのみであれば1nm程度)
TEM-EDX、EELS組成、化学状態、電子状態、それらの分布状態0.1nm~10nm

製造工程における分析・評価とラマン分光分析の出番

ここでは、リチウム二次電池の製造工程の概略と、その中におけるラマン分光分析の出番を紹介していきます。 ラマン分光法は、空間分布情報として1µm弱の微小領域まで識別できることや、活物質や炭素材料の結晶性評価に適していることから、さまざまな場面で活用されます。 

開発段階におけるラマン分光分析の出番

以上までは、一定の性能を満たした電池を市場に送るための評価、ともいえます。一方で、より高い要求性能を満たすために、電池の中で何が起きているのか、どこに工夫の余地があるのか、ということも調べられています。現状の一般的なリチウムイオン二次電池は、理論値の10分の1程度の能力しか発揮できていません。理論と実際の間に差があるのはリチウムイオン二次電池に限ったものではありませんが、高価な原料を使用していることもありますし、少しでも効率の向上が望まれます。 

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が作成したロードマップ(Battery RM2010)では、2030年までにリチウムイオン電池のエネルギー密度を現状の2.5倍に高め、その一方でコストを5分の1に下げることを目指しています。さらに2030年以降は、リチウムイオン電池を超える新規電池を開発によって達成される高い目標が掲げられており、そのために2009年に立ち上げられた『革新型蓄電池先端化学基礎研究事業(通称RISING) (2009年度~2015年度)』 がオールジャパン体制で取り組んでいます。大型放射光施設を使った電池反応の高度な解析で、界面情報など新たな知見が発表されてきており、今後の進展が大いに期待されます。 

一方で、大型放射光施設の利用は、残念ながら『いつでも、誰でも、簡単に』、というものではありません。また、もう少し広い視野における“分布情報”がほしい、という場合もあるかもしれません。 そういったケースでは、ラマンイメージング測定が適しています。 

ラマンイメージング測定では、数10µm~数100µm四方ほどの面積内での成分やその結晶構造の分布を捉えることが可能です。 また、ガラス越しに観察することができるため、非大気暴露観察用セルやin-situ(その場観察)セルを用いての充放電反応分布の観察ができます。 次のページでは、それらの分析事例をご紹介します。