SiC ウエハー全面の高精細ラマンイメージング

SiC やGaN などのワイドギャップ半導体は、Si 半導体と比較して、低損失、高温で動作できるなど様々なメリットがあり、その需要が高まっています。これらの半導体デバイスは過酷な環境で使用されることが多く、高い信頼性が求められます。そのためには、高品質なウエハーが必要ですが、結晶成長時に結晶欠陥が発生しやすいため、ウエハーの欠陥種類や分布を正確に評価する技術が必要です。

 ウエハーの欠陥分布の観察には、X 線トポグラフィーや偏光顕微鏡などが用いられます。図1 は、結晶内歪観察装置CS1( セラミックフォーラム社製) で取得した4 インチSiC ウエハーの歪画像です。ウエハーに残留する欠陥や応力によって引き起こされる結晶歪の分布状態を、白のコントラストにより、簡便に観察することができます。このウエハーでは、全面に多数の歪が分布していることがわかります。

 この歪の原因としては、結晶欠陥が推察されますが、その欠陥の種類は、ラマンイメージングにより容易に判別することができます。SiC には、化学組成は同じでも、原子配列が異なる結晶多形(ポリタイプ)が多数存在します。ポリタイプによりラマンスペクトルが異なるため[1] 、ラマンイメージングにより結晶形の種類や分布が可視化できます。

 図2 は、ウエハーステージ搭載ラマン顕微鏡RAMANdriveでラマンイメージングした、ウエハー全面の結晶多形の分布画像です。このウエハーのポリタイプは4H ですが、ウエハーの左上から弧を描くように、15R,6H の2 種類の異なるポリタイプが分布していることがわかります(ラマンスペクトルは図3に示します)。歪分布画像と分布を比較することで、異なるポリタイプの周辺には、不整合に由来する歪が存在することがわかります。また、歪分布画像の中央部や左下端の歪集中個所では、ラマンイメージから異種ポリタイプは見られず、主に貫通転位の密集による歪が発生していることも読み取れます。

▲図1:結晶歪観察装置にて取得したSiC ウエハーの歪分
▲図3:ウエハー内で観察された各ポリタイプのラマンスペクトル


▲図2:RAMANdrive で取得したSiC 結晶多形ラマンイメージを図1に重ねたもの。  4H 6H 15R

パワー半導体は、高電圧、大電流に対応する半導体であり、電力供給システムや、車、新幹線、家電など私たちの生活のあらゆるところで使用されています。記憶媒体等で使用される半導体より、電気を通しやすく、電力損失が少なく、かつ過酷な環境でも壊れにくいことが必要です。そこで高温でも安全に動作できるよう、従来のSiよりバンドギャップが大きいSiCやGaNなどのワイドギャップ半導体材料が用いられています。SiCは、絶縁破壊電界強度がSiの10倍あり、高耐圧でもあります。SiCの重要性は高まる一方ですが、材料となるウエハーの製造はSiと比較して結晶成長や加工の面で難しく、ウエハープロセスにおいても高い技術が必要なため、SiC半導体は製造コストが非常に高いことが課題となっています。またパワー半導体では、ウエハーの表面から裏面まで全体を使用するデバイス構造が多いため、ウエハー表面だけでなく、ウエハー内部の品質も重要になります。

ラマン分光イメージングでは、SiC半導体の品質管理において重要な、残留応力や結晶性の評価ができます。

例えばラマンスペクトルを用いることで定量的な応力測定ができます。下図は、4H-SiCに特徴的なラマンピーク776cm-1(FTO(2/4) E2) のピークシフト位置でプロットした応力分布です。 ポリタイプ分布と、応力測定の結果を比較すると、15Rのポリタイプが分布する領域には圧縮応力がかかっていることが分かります。中央付近の貫通転位の領域では引張応力がかかっていることがわかりました。

上記のポリタイプの分布測定と応力測定は、同じスペクトルでそれぞれ分析が可能です。このため、一度のラマン分光イメージングでウエハーの多くの特性が分かります。

SiC 結晶多形の3D ラマンイメージング

 図1は透過観察のため、欠陥や歪がウエハー内部のどの深さに存在するのかはわかりません。

 RAMANdrive は優れた共焦点( コンフォーカル) 光学系を搭載しており、高分解能な3D ラマンイメージング分析が可能です。図4 は、結晶多形が検出された座標にステージを移動させ、高倍率(100x, 0.9 N.A.) の対物レンズを用いて、3D ラマンイメージングした画像です。ラマンスペクトルから、結晶深さ方向に、15R、4H の2 種類の結晶形が存在し、平面イメージングで検出された結晶多形(15R) は、ウエハー表面から、10 ~20 μm の深さに存在することがわかりました。また結晶多形は、ウエハー平面(0001) 面とは異なる結晶面で生じていることもわかりました。図4 b)、c) に特定の断面のイメージを示します。3D イメージングにより、任意の断面の結晶分布を知ることができます。このように、3Dラマンイメージングにより、半導体ウエハー内部の結晶多形や応力の分布を、サブミクロンの空間分解能で、明瞭に可視化することができます。

a) 3D ラマンイメージ   15R 4H
b) 3D ラマンイメージ(XZ 面)
c) 3D ラマンイメージ( 表面から11μm 深さのXY 面)

▲図4:結晶多形部の3D ラマンイメージ

参考文献

[1]“Raman Investigation of SiC Polytypes” , S. Nakashima and H. Harima, phys. stat. sol. (a) 162, 39 (1997)