最先端の顕微鏡

共焦点顕微鏡

 点を理想的な顕微鏡で覗いても像は厳密には点になりません。点の周りに、ぼやけの原因となる輪が見えることになります。この輪を見えないように、絞りをおいたのが共焦点顕微鏡です。もう一つの特徴は、照明側も対物レンズをとおして、一点を照明することです。照明も像も共に焦点を結ぶので、共焦点顕微鏡と呼ばれています。しかし、これでは、一点しか見ることができないので、試料上をなぞる(走査)することが必要になります。さらに、焦点が上下(高さ方向)でずれると、照明の焦点もずれ、暗くなって見えなくなります。焦点の合ったところだけしか、明るく見えないので、立体的に試料を捉えることができます。
 生物への応用では、蛍光染料で染めた試料を共焦点顕微鏡で観察することにより、蛍光でありがちな、ぼやっとした画像を、鮮明に、立体的に捉えることができるようになりました。レーザーで蛍光を励起し(光らせ)、蛍光だけをとらえるところは、非線形光学顕微鏡ににています。

ラマン顕微鏡

 ラマン効果は、物質を光で照らした時に、その物質の状態(分子の運動状態)により、照らした波長とは違う波長の光がでてくる現象です。蛍光染料で染めなくても、励起光とは違う光が出ているのです。その光は非常に微弱で、強力なレーザーが登場するまで、実現しませんでした。
 ある入射光に対して観測されるラマン散乱光は物質に特有で、散乱光のスペクトル(波長の分布)を調べることで、その物質を特定することができます。蛍光共焦点顕微鏡と構造は似たものになりますが、検出器に波長の分布を調べる装置が付きます。

非線形光学顕微鏡

 非線形光学顕微鏡は、照明で照らした光以外の光をみる顕微鏡です。物質に光を当てると、反射や屈折がおきますが、ごく一部の光は、物質の状態によって波長が変わります。また、強い光をあてると、物質の状態がかわることもわかってきました。

第二高調波顕微鏡

 第二高調波(SHG)は、入射光によって、物質から出てくる、入射光の2倍の周波数の光です。レーザーの波長を短くする(周波数をあげる)ことに、応用されている現象です。物質の微細構造によって、強度がかわり表面状態を知ることができる、入射光で選択的に照らした部分だけを見ることができるので立体構造を知ることができるなどの特徴があります。

CARS顕微鏡

 CARSは、ラマン散乱のうち、入射光より周波数が高くなる光です。染色などをしなくても、蛍光を発する生体試料の観察がおこなえます。また、SHG顕微鏡同様、立体構造を知ることもできます。

電子顕微鏡

透過型電子顕微鏡(TEM)

 光ではなく、電子を用いることで、原理的に分解能の限界を打ち破った顕微鏡です。照明に電子線を使い、光学レンズの代わりに、電磁石で電子線をまげる電子レンズを使用していますが、像を見る原理は光学顕微鏡と同じです。

走査型電子顕微鏡(SEM)

 電子を用いることは、同じでも、走査型電子顕微鏡は、光学顕微鏡とは原理的に違います。どちらかというと、走査プローブ型顕微鏡に近い顕微鏡です。電子線という、非常に細い針(プローブ)で、試料表面をなぞり(走査)、そのときに得られる情報を画像にして、観察します。最初は、電子線によって、引き出させれる2次電子を観察していましたが、表面の組成がわかる、反射電子やX線なども検出できる様になり、分析装置としても発展しています。

走査プローブ型顕微鏡

走査型トンネル顕微鏡(STM)

 プローブは針で、試料と針の間に、生じるトンネル効果によって精密に距離を測定しています。試料はピエゾ素子で精密に走査されていて、針が試料の上を一定の距離を保ちながら、なぞっていきます。試料の位置と針の位置が立体的にコンピュータで再現されます。

原子間力顕微鏡 (AFM)

 STMはトンネル効果を測定するので、試料は電気を通す物質に限られましたが、原子間力顕微鏡は絶縁体でも、水中でも測定可能です。プローブはやはり針で、試料に針を限界まで近づけたときに、原子間力で針が動くのを検知して、高さ方向の距離を測定します。試料の走査はピエゾ素子で精密に走査され、STM と同様に、試料の位置と針の位置が立体的にコンピュータで再現されます。

光学顕微鏡による観察

ここでは、顕微鏡をもっとよく知ってもらうために、代表的な光学顕微鏡による観察について紹介します。

明視野観察

 最も一般的な方法で、学校でだれでも一度はこの方法で顕微鏡を見ているでしょう。透過の観察では、サンプルは明るい背景の中に見えます。
 試料を一様に照らし、透過率や反射率の違い(色と言ってもよいでしょう)によって、像のコントラストを得る観察です。普段われわれが物を見るときと同じです。
 しかし、生物などの場合、多くの試料は、透明で色がほとんど無く、透過で見ると、はっきりしたコントラストがでません。このため、試料に色を付ける染色手法も発展しました。
 透過観察では試料に対して、対物レンズの反対側に照明装置がおかれ、対物レンズいっぱいに照明光が入るように調整します。このため、視野の背景は文字通り明るく見えます。金属顕微鏡など反射光で観察する場合は、対物レンズを照明用のレンズとして使う、落斜照明が行われます。 

暗視野観察

 明視野観察では、はっきりしない透明で色のないサンプルを、照明方法を変えて改善しようとする手法です。大まかには、明視野では正面からであった照明を斜めから当てる観察方法です。
 照明レンズの前に中心を隠すリング状のスリットをおきます。照明光は周辺部分からだけとなり、斜めの光が試料にあたります。試料のないところでは、照明は対物レンズにほとんど入らずに、背景は暗くなります。試料のあるところでは、照明光の方向が、反射や、透過では屈折で、方向が変わり対物レンズに入るようになります。このような試料上の一部が明るく見えることになります。明視野で見えにくかったサンプルにコントラストがついて、見える可能性があります。染色してサンプルを加工しなくて済む訳です。解像度がよくなるわけではありませんが、一様な表面に分解能ぎりぎりの非常に小さい物体があるような場合、見つけやすくなる可能性もあります。 

位相差観察

 透過の試料を染色せずによく見るための工夫です。暗視野観察をさらに進めた方式ともいえます。
 透過観察で、試料上とそうでない部分を通った光では、位相がずれています。これは物質によって光の伝わる速度が変わるためです(回折や屈折の原因)。しかし、物質の有無によって生じたこの位相差は人間の眼では感じることはできず、何も見えません。そこで、この位相がずれた光を干渉さで明暗に変えて観察するのが、この方法です。
 具体的には、特殊な照明と対物レンズをセットでつかいます。照明にはスリット(リングスリット)があり、リング状に照明をおこないます。暗視野照明と似ていますが、暗視野照明では照明光が対物レンズぎりぎりを通すようにするのと違い、位相差観察では新たに追加するリング状の位相膜に照明が当たるようにします。
 サンプルを通過した光は、試料が小さい(透過する距離が短い)場合、4分の1以下の波長だけ、回折によって遅れ、しかも方向がかわるので、位相膜のないところを通過します。サンプルがないところでは、照明光は、位相膜の部分を通過し、それによって、位相が4分の1波長だけ進みます。-1/4 と+1/4で二つを干渉させると、1/2、半波長ずれた逆位相でお互いに打ちしあい、暗くみえます。何もないところでは、干渉はおきないので、背景が明るい明視野のようにみえることになります。 

微分干渉観察

 干渉させて明暗を見る点では位相差法と同じですが、回折ではなく、光路差(光の進む距離)で干渉をおこす方法です。白色光を使った場合は、ニュートンリングの様な虹色が出ます。
 薄膜や微細な隙間では、表面とその下の面で反射した光が、光路差の違いで干渉して虹色の縞ができます。単色光では濃淡の縞になります。もっとも明るくなる部分ともっとも暗くなる部分の光路差は波長の半分ですから、一つの縞で数百ナノメータ(1波長分)の高低差を見せることができます。
 微分干渉では、ノマルスキープリズムが使われます。このプリズムを通った直線偏光は直交する2つの偏光にわかれます。しかも、少しずれます。この光を照明としますが、サンプル上で干渉はおこりません。対物レンズの後にも、同じプリズムをおくと、分かれた偏光は元に戻り、干渉させることができます。
 分かれた2つの照明光は試料を透過しますが、立体的な構造があれば、試料の中を通る距離が違い、光路差の違いで位相差が生じます。対物レンズの後ろでこの位相差に応じて干渉による濃淡が生じます。 

偏光観察

 試料によってはその構成する物質によって、偏光を変えるものがあります。これを利用して、偏光した照明でサンプルをてらし、対物レンズのあとにある偏光板をまわして、偏光の様子を像で見るのが、偏光観察です。
 対物レンズのあとにある偏光板の方向と、試料からの偏光が平行なら明るく、直交するなら暗くみえます。液晶物質はもともと透明なので、普通の観察法ではみえません。そこで、偏光で観察します。また、半導体素子の故障解析法として、故障部分が加熱する様子を表面にたらした液晶が対流し、偏光が変わることで視覚化する方法もあります。また、透明樹脂に力を加えると、その様子が偏光の違いとしてとらえられることも知られています。鉱物、氷などの結晶の観察にもよく用いられています。 

蛍光観察

 試料を蛍光染料で染めて観察する方法です。自然界の中にはそのままでも蛍光を発する物質は多く、タバコの葉など、そのまま観察できる物もあります。
 通常、蛍光観察では紫外線など短い波長の光で照明します(励起光)。蛍光を発生する物質は、その光を吸収し、励起状態になり、その状態から元に戻るときに、励起光よりも長い波長の光(緑)を出します。そのため、一定波長以上の光だけを通すフィルタを対物レンズの後におけば、照明の光はみえません。この場合は、紫外光を通さないフィルタです。真っ暗な背景に蛍光部分だけがみえるので、見やすくなる特徴があります。
 照明光は水銀ランプなどの光を特定波長だけを通すフィルタをとおして作り出します。
 生物分野では、共焦点顕微鏡と組み合わせて、より鮮明に、さらに立体構造まで読み取ることができるようになりました。