光学顕微鏡の用語

ここでは、よく眼にする、あるいは、耳にする顕微鏡用語について、もっとよく知ってもらうために、解説します。

倍率

 10ミクロンの試料が10ミリに見えれば、倍率は1000倍になります。
 写真にすれば、定規を当てられるので、はっきりします。写真上で10 mm に写っている10μmの物体は、1000倍です。
 観察しているときの倍率は、対物レンズにかかれている倍率と接眼レンズにかかれている倍率をかければ顕微鏡の倍率にはなります。顕微鏡に会った対物レンズと接眼レンズを使用している限り、この倍率は正しく計算されます。(そのように設計されています。)
 顕微鏡には、メーカーによって、鏡筒の長さが、160mmのもの、210mmのものなどがあります。接眼レンズと、対物レンズはこの距離に合うように作られています。倍率はこの設計仕様にあっている場合ですので、違う設定の対物レンズを使えば、倍率は違ってきます。他にも最高の画像、性能が得られる様、2つのレンズは設計されているので、理由もわからず、いろいろなメーカーのレンズを混ぜて使用することはあまり、勧められません。
 倍率は、単に、どれだけ引き延ばしたかという意味ですので、画像が鮮明かどうかの尺度ではありません。拡大だけなら、簡単におこなえますので、鮮明さを無視して引き延ばすことを「バカ倍」ともいいます。デジカメで撮った山の風景写真を、どんどん引き伸ばしても、山に生えた木の葉が見えるわけではなく、ぼやけて、何が写っているのかわからなくなります。 

油浸レンズ

 通常、倍率の表記の下に線の入った対物レンズです。「OIL」などともかかれています。
 このレンズはガラス程度の屈折率を持つ油をレンズと試料の間に満たして、空気とレンズの屈折の影響を排除する工夫がなされています。従って、油を使用しない場合は、性能を十分に発揮できません。
 普通のレンズでは、レンズ(ガラス)→空気→カバーガラスと2ヶ所で光を通る媒質が変わり、屈折がおこります。油浸レンズで使用する油、イマージョンオイルは、ガラスと屈折率が合わせてあるため、屈折がおきません。ガラスの中に試料が取り込まれている感覚です。このことは、開口数を大きくすることにつながり、しいては、解像度を上げることになります。
 油浸レンズはその性能の高さから、半導体の露光装置にも応用されるようになっています。また、電子顕微鏡など、光を使用しないレンズでも、同じような働きをする電子レンズを油浸レンズと呼んでいます。 

開口数(NA)

 開口数は解像度をきめる数値です。対物レンズの焦点から、対物レンズにいっぱいに広がった円錐形の角度をθとするとnsinθで表されるのが、NA、開口数です。ここでnは対物レンズと試料の間の物質の屈折率です。
 直感的には、どれだけ広く、試料からの光をとりこめるかということになります。レンズには開口数も表記されていて、高性能な対物レンズで0.95ぐらいの数字です。
 空気の屈折率は1ですので、NAも1を超えることはありません。逆にnを1以上にすれば、もっと大きな開口数が得られます。対物レンズと試料の間に空気より屈折率の高い油などを充填することで、NAを大きくしているのが、油浸レンズです。油浸レンズの開口数は1より大きく、1.40もあるものもあります。開口数が1以上であるというのは、θが90°でNA=1ですから、直感的には、対物レンズと反対方向に反射した光も拾い集めてくる感覚です。
 解像度の限界は空気中では 波長 / 2NA となり、開口数が大きいほど、解像度は小さな数値、つまり、より細かいものを見えることになります。また、NAの大きなレンズはどうしても作動距離が短くなります。

解像度

 どのくらい小さいものがみえるかの目安になる数値です。倍率はどんどん引き延ばせば、大きくできますが、解像度が十分になければ、引き延ばしたときにぼやけてしまいます。カメラ付き携帯の画像を大きく引き伸ばすとぼけぼけの写真になるのは、このためです。
 分解能ともいわれますが、顕微鏡では、その装置で、2つに見分けることのできる、2つの線(点)の最小の距離が解像度となります。1ミクロンの解像度とは、1ミクロン間隔の2本の線が、2本に見えるということです。この距離が小さいほど、「分解能が高い」「高解像度である」といいます。
 画素数も解像度とは別の特徴をあらわす数値です。いくら500万画素のデジタルカメラでも解像度がなければ、ぼけた写真しかとれません。しかし、普通は、大きな画素数に合わせた解像度の高いレンズがついているはずです。
 間隔dのスリットがぎりぎりで判別できるとき、その解像度がdとなります。スリットを通る光は、dが小さくなると、回折して分かれてしまいます。まっすぐ通り抜けてきた光(0次)は、間隔をかえても、いつも見える光です。少なくとも一番低い次数の回折光(±1次)が、レンズに入らないと、スリットであることはわかりません。このときの回折光の角度θは、波長をλとすると、dsinθ=λとなります。この角度は開口数NAの定義と同じですので、d=λ/NAとなります。波長が小さいほど、開口数NAが大きいほど、dは小さくなり、高い解像度が得られることがわかります。
 上記の説明は、照明が垂直に当たった場合ですが、実際には、照明は斜めからも当たるので、照明の仕方も解像度に影響を与えることがわかります。理想的には、照明を同じレンズで行えば、2倍の解像度が得られるため、解像度の限界はλ/2NAとなります。 

収差

 薄いレンズや焦点距離の長いレンズでは、大きく屈折せず、光は、ほぼ焦点に集まりますが、一般には、理想的な焦点からずれています。このずれを収差といい、像がぼやける原因になります。収差の原因は、光が屈折すること自体やレンズの形状そのもにあります。
 色収差:太陽光(白色光)をプリズムに通して、光が虹色に分かれるとおり、白色光はガラスを通るときに、その波長(色)によって、屈折する角度が違い、通る経路が違ってしまいます。レンズを通すと色がにじんでしまいます。
 球面収差:普通のレンズの表面は球面で、周辺に入った平行光と、中心付近に入った平行光は同じ1点には焦点を結びません。焦点が1点に結ぶのは放物面鏡です。そこで、CDやDVDの光ピックアップには、この歪みが最小になるように各部分の曲面を設計した非球面のレンズが使われています。顕微鏡では、屈折率の高いレンズで、曲率を小さくしたり、2枚のレンズを使って1枚当たりの曲率を小さくして影響を低減しています。
 このほかに、周辺部の画像がぼやけてしまうコマ収差、光軸の外からの光線に発生する非点収差、像が平面にできず曲面にできる像面湾曲、画面の周辺部で直線が樽型に曲ってしまう歪曲収差などがあります。

 収差は、ガラスの素材を変える、逆の性質を持ったレンズを組み合わせて打ち消し合うなど、数枚のレンズを使って小さくなるように設計されています。顕微鏡の対物レンズには、この補正のされ方により、「アクロマート」「アポアクロマート」「プランアポアクロマート」などのレンズがあります。
 アクロマートは2色(赤と青)だけに対して色収差が取り除かれているので、ピントがあっても多少の色がにじんでしまいます。しかし、単色光でモノクロの写真をとるのであれば、十分といえます。アポクロマートは3色の色収差をとりのぞいたもので、プランアクロマートはアクロマートの像面湾曲を補正したレンズです。プラン系のレンズは視野全体を写真やCCDで歪みなく、とらえることができます。そして、プランアポクロマートは前述2つの性能をもったレンズで、当然、高価なレンズとなります。

焦点深度

 サンプルにピントを合わせたとき、焦点面には像ができています。その焦点面を移動させても像が許容できる(ぼけない)距離を焦点深度と言います。焦点深度は開口数に反比例するので、分解能を高く、かつ、焦点深度を深く、という訳にはいきません。ふつう、倍率が高くなると開口数が大きくなり、解像度があがり、焦点深度は浅くなります。また写真撮影においての焦点深度は肉眼での観察の約半分ほどしかなく、肉眼でのピント合わせ以上に、写真撮影のピント合わせは難しくなります。CCDではさらに、焦点深度が小さくなりますが、モニターを見ながら焦点を合わせられるので、気にならないかもしれません。
 これに対して、ピントが合っている状態で、サンプルを移動させてもぼけない距離を被写界焦点深度と言います。被写界深度内にあるものは同時に見えることになります。被写界深度も開口数に反比例します。

 共焦点顕微鏡は、被写界深度が通常の顕微鏡より小さくなりますが、ピントが合った部分だけが明るくなります。これを利用して、サンプルを光軸方向にずらしながら(Z方向のスキャン)、輝度の最大値だけを記録すると、原理的に被写界深度が無限大の像を作り出すことができます。最近の画像処理装置の中には、ピントの合った画像だけを選び出して合成し、同様の機能を実現するものも出てきています。