2024年 第1回 ライン照明による超高速イメージング

ナノフォトンのレーザーラマン顕微鏡RAMANtouchは、ライン照明を用いて400点のスペクトルを同時検出することで高速イメージングを実現しています。この記事では、ポイント照明と比較して、ライン照明の高速化の原理について詳しく説明します。

測定時間はどうやって決まるのか

ラマンイメージングでは、多くのラマンスペクトルを測定します。例えば、100×100点のスペクトルを測定すると、1万スペクトルになります。1点あたり1秒かけて測定すると、1万秒、つまり、2時間47分かかります。データ点数を減らさずに1点当たりの測定時間を減らせば、高速になります。1点当たり0.1秒なら17分、1点当たり0.01秒なら1分40秒まで短くなります。しかし、実際にはここまで短くするとほぼノイズしか測定できなくなります。ラマン散乱光の強度は、レーザーパワー×露光時間に比例するからです。測定時間を短くするにつれて、強度が小さくなりノイズに埋もれてしまうのです。

図 1 露光時間1秒と0.1秒の場合のスペクトル比較

露光時間を短くしたときに、ラマン散乱光の強度を落とさないためにはレーザーパワーを上げるとよいと思うかもしれません。しかし、照射できるレーザーパワーには上限があります。レーザーパワーを強くしすぎるとサンプルが変質したり、燃えたりするためです。つまり、実際の測定では、サンプルによって照射できるレーザーパワーが決まり、必要なSN比によって1点当たりの露光時間が決まり、必要な測定範囲や細かさによって測定点数が決まり、その結果、トータルの測定時間が決まります。

高速化手法

それでは、どうすれば、高速にイメージングができるのでしょうか? 大きく分けると、二つの方向性があります。一つはラマン散乱光を増やすことで、もう一つはノイズを減らすことです。SN比のS(信号)を増やすか、N(ノイズ)を減らすかということです。この記事では、ライン照明を例に、ラマン散乱光を増やして高速イメージングする方法について解説していきます。

ライン照明による高速イメージング

先ほどまでは、簡単のため、レーザーのパワーに上限があると説明していました。しかし、正確には、レーザースポット上の温度上昇は単位面積当たりのパワー(パワー密度)に比例するため、パワー密度に上限があります。レーザービームをライン状に照射して、例えばポイント状に照射したときの400倍の面積に照射したとすると、パワー密度は400分の1になるので、その分、レーザーパワーを大きくすることができます。

図 2  ポイント照明とライン照明の模式図

次に、ライン上に生じたラマン散乱光の検出について見ていきましょう。以下の図は、ポイント照射とライン照明における、CCD検出器上での信号の比較です。ポイント照射では、CCDの1点にしか信号がありませんが、ライン照明の際にはCCDの全面に信号が検出されます。ライン上の信号を漏れなく検出するためには、この図のように、ラインの幅に対応した画素数の多いCCDが使用されます。例えば、ライン方向に400画素のCCDを用いると、ライン上に生じたラマン散乱光を400点に分割してスペクトルを測定できます。

図 3  ポイント照明とライン照明のCCD検出器上での信号の比較
(試料はPMMA とPolystyreneとの混合粒子)

ポイント照明とライン照明で、照射するレーザーのパワー密度が同じであれば、ポイント照射で1点測定している間に、ライン照明では400点のスペクトルを測定することができます。信号を増やすという観点で見ると、照射するレーザーパワーの総量が増えた分、ラマン散乱光の総量が増えており、その結果、高速に測定できると捉えることができます。

まとめ

以上のように、ライン照明では、レーザービームをライン上に照射することで、 一度に照射するレーザーパワーを増やしていること、そして、画素数の多いCCDを用いてライン上のスペクトルを同時検出することで高速化を実現していることが理解していただけたと思います。次の記事では、もう一つの高速化の手法であるノイズを減らすということについて解説します。

文責:製造ジェネラルマネージャー 塩﨑祐介