第11回 加熱冷却下のその場測定をする

ラマン分光測定は様々なサンプルに適用可能ですが、サンプルによっては、温度や雰囲気などの測定環境を選ぶ必要がある物があります。あるいは測定環境を積極的に変化させて、サンプルの状態がどのように変化していくかを測定したいケースもあるでしょう。例えば、凍らせたままサンプルを測定する必要がある場合や、加熱あるいは冷却することでサンプルの結晶状態がどう変化するか測定する必要がある場合などが該当します。

そのような場合、部屋をまるごとそのような環境にするのは現実的ではないので、所望の環境が実現できる特殊なサンプルステージを用意し、その中にサンプルを設置して測定することになります(いわゆるその場測定)。ステージは用途に応じて様々存在しますが、最も代表的なものは、温度制御を行うための冷却加熱ステージでしょう。ここでは顕微鏡用冷却加熱ステージを用いた、その場測定について紹介します。

冷却加熱ステージのラインナップについて

ステージは温度領域によっておおよそ3ラインナップに分かれます。所望の温度域にあったステージを選択します。

加熱専用
1000℃以上の温度領域までサンプルを加熱する場合に特化した仕様。

冷却加熱両用
液体窒素温度から500℃程度まで、幅広く使えるスタンダードな仕様。

冷却専用
液体ヘリウム温度までサンプルを冷却する場合に特化した仕様。クライオスタットとも言う。真空ポンプなども必要になり、大がかりなシステムになる。

冷却加熱ステージの構造について

一般的な冷却加熱ステージの構造を下記に記載します。サンプルはステージ内部のサンプル台上に配置し、サンプル室は不活性ガスをフローさせるか真空引きを行います。サンプルはサンプル台越しに間接的に冷却加熱されます。冷却する場合は冷媒として液体窒素などを使用し、加熱する場合はヒーターを使います。サンプルの温度は、試料台のできるだけサンプルに近い位置にセンサを配置して測定するように設計されています。

サンプルを設置する

サンプルを設置するときには、サンプルとサンプル台の熱的接触が十分にとれるようにしなければなりません。サンプルが基板状の物であれば、裏面は研磨しておくのがよいでしょう。冷却する場合は、サンプルとサンプル室の間に熱伝導グリス(真空グリスなど)を塗布して熱接触をとるとなお良いです。加熱する場合はグリスを使用してしまうと、グリスからガスが出てきてしまう可能性があるので、使用は避けるべきです。

冷却加熱ステージを設置する

冷却加熱ステージ本体を顕微鏡に設置する時に注意すべきことは、ステージから伸びているケーブル・配管類の取り扱いです。空調の吹きつけによるものだったり、真空ポンプの振動だったり、あらゆる振動はケーブル・配管越しに伝わってきます。ケーブル・配管が振動の伝わりにくいフレキシブルな物だとしても、100倍対物レンズぐらいの高倍率での観察になると問題になるケースがあります。
その対策としてケーブル・配管は、顕微鏡から離れた場所で振動に強い部位(除振台など)に固定します。真空配管や断熱配管がつながっている場合は特にしっかり固定し、場合によっては冷却加熱ステージ本体を顕微鏡にしっかり固定します。

対物レンズを選択する

加熱するのか冷却するのかによって、選択すべき対物レンズは変わってきます。 加熱する場合はステージからの放射熱があるので、対物レンズ保護のため、作動距離をある程度長くとる必要があります。通常ラインナップの対物レンズでは10倍以下の倍率のレンズが使用可能で、10倍以上の倍率のレンズを使用したい場合は長作動あるいは超長作動対物レンズを選ぶ必要があります。
冷却する場合は、対物レンズを窓側に近づけても問題ないので、窓越し観察にあわせてガラス補正レンズを選択します。ただし、観察窓裏面とサンプル表面の距離があまり近いと、ステージ外からの熱流入によって、サンプルが冷え切らない、あるいは観察窓が冷えて結露してしまう可能性があるので、作動距離が短すぎるレンズを使用する場合は窓の厚さを変更するなど、注意が必要です。

冷却加熱ステージの温度コントロールについて

温度コントロールは、サンプル自身の温度コントロールで必要なのは当然ですが、サンプルの位置ドリフトを抑える意味でも重要になります。特に、長時間のイメージング測定をする場合に重要です。したがって、ステージを検討する時には、ターゲットとする温度領域において温度精度ができるだけ高い物を極力選択するようにします。

測定時に気をつけること

サンプルを冷却加熱する際に、観察窓に対して気をつけておく点があります。加熱するとサンプルからガスが出てくる物があります。その場合、観察窓の裏面を汚してしまい、サンプル測定ができなくなってしまいます。また、冷却する場合は、窓材が室温より下がる傾向があるので、部屋の湿度によっては窓が結露して、サンプル測定ができなくなってしまいます。この対策として、基本的には窓にガスを吹きかけながら測定をします。この効果は絶大ですので、冷却加熱前に準備をしておくことが大事です。

次回は、冷却加熱ステージを用いたその場観察事例をご紹介します。