第9回 深さ方向分析のための共焦点光学系

ラマン顕微鏡は、共焦点光学系(コンフォーカル光学系)を採用しているので、深さ解析を可能にします。その深さ分解能は、1μm~数μmです。 深さ解析を利用したアプリケーションとしては、樹脂に包埋された異物の解析や、物体の3次元形状の把握、層の厚さ解析などがあります。

多層フィルムの解析(断層、断面)例は、こちらを御覧ください。

深さ解析を行う場合は、試料内部にレーザーをフォーカスするため、xyイメージング測定やスペクトル測定に比べて少し難しい測定系となります。装置の性能を最大限引き出し、より良い測定結果を得るためには、この難しさを理解し、その難しさを克服するノウハウを知っておくことが重要です。

コンフォーカル顕微鏡の空間分解能

コンフォーカル顕微鏡(ラマン顕微鏡含む)の空間分解能は、使用するレーザーの波長が固定される場合、対物レンズとコンフォーカルピンホール(スリット)の大きさで決まります。ピンホールのサイズが十分に小さいとき、

コンフォーカル顕微鏡(ラマン顕微鏡含む)の空間分解能は、使用するレーザーの波長が固定される場合、対物レンズとコンフォーカルピンホール(スリット)の大きさで決まります。ピンホールのサイズが十分に小さいとき、

x方向の分解能(FWHM) = ・・・(1)
z方向の分解能(FWHM) = ・・・(2a)

と表せます。ここで、λは波長、NAは開口数、nは屈折率(通常n=1, 油浸 n=1.3~1.4)です。(2a)は、NAが小さい時には、

Z方向の分解能(FWHM) = ・・・(2b)

と、近似できます。

AおよびBはピンホールのサイズによって決まる定数です。ピンホールが無限小の時に A= 0.37, B= 0.64となりますが、実際に無限小にするわけにはいきませんので、ナノフォトン社のRAMANtouch/RAMANforceではA = 0.4, B = 0.68になるようなピンホールの大きさで、分解能測定をしています。装置を起動した時のデフォルトは、A = 0.48, B = 0.82程度のピンホールサイズ・スリット幅に設定されています。

(1), (2a), (2b)式が使用できる「ピンホールのサイズが十分に小さいとき」というのは、ピンホールのサイズが、ピンホール上に結像するレーザースポットのエアリーディスクのサイズ以下のときです。ピンホールのサイズとAおよびB定数の関係について以下でさらに詳しく説明します。

ピンホールの大きさ

前項の分解能を決めるAとBという係数は、ピンホールの大きさに依存しますが、実は絶対値ではなく、相対値に依存します。この相対値は、ピンホール上に結像するレーザースポットのエアリーディスクを基準としたピンホールの大きさです。試料上に結像するレーザースポットのエアリーディスクは、

エアリーディスクの直径 = ・・・(3)

となります。試料のピンホール面への投影倍率をMとすると、ピンホール上に結像するレーザースポットのエアリーディスクは、

 ・・・(4)

となります。投影倍率Mは、対物レンズの倍率と、対物レンズからピンホールまでのレンズ系で決まります。ピンホールのサイズを、このエアリーディスクの大きさで割ったピンホールの大きさの単位を、AU(Airy Unit)で表します。

当社のレーザーラマン顕微鏡RAMANtouch/RAMANforceでは、投影倍率Mは、ほぼ対物レンズの倍率と同じですので、100倍対物レンズ(NA=0.9)で、波長532nmのレーザーを集光した時の、ピンホール上のエアリーディスクは、1.22*100*532nm/0.9 = 72μmです。ピンホールのサイズが、50μmだとすると、ピンホールの相対的な大きさは、0.7AUとなります。

ラマン信号で大変微弱で、スペクトルを解析するためには、十分な信号強度が必要となります。そのために、なるべく大きいサイズのピンホールを使用したいが、同時に、深さ解析で高分解能測定のために、ピンホールのサイズをなるべく小さく設定したいという矛盾した設定が求められます。左下図に、ピンホールのサイズに対するピンホールを透過するラマン光の透過率を示します。また右下図に、ピンホールのサイズに対する、式(1),(2)中の係数AとBを示します。ピンホールサイズおよびスリットサイズが 1AUの時の、信号利用効率は、それぞれ83.8%と90.4%です。

次回の記事では、この共焦点光学系の話を踏まえて、実際の測定時のテクニックを説明します。