ヨーグルトカップ蓋材のラマンイメージング分析

ナノフォトン社製レーザーラマン顕微鏡 RAMANtouch シリーズは、独自のライン照明を用いた超高速ラマンイメージングが可能です。ここで紹介するヨーグルトカップの蓋材の内側は、ヨーグルトが付着しにくい構造となっておりフードロス低減にもつながっています。この構造をラマンイメージングで分析した事例を紹介します。

ラマンイメージで観察した“ヨーグルトの蓋”

最近、一部のヨーグルトカップの蓋の内側には、「ロータス ( 蓮 ) 効果」を生み出す加工が施された、撥水性包装材が使用されています。ロータス効果とは、蓮の葉が、表面に数μm の微細な突起物を作り、水をはじくことをヒントにした、撥水構造のことです。ヨーグルトの蓋の表面に微小な凹凸を設けることで、水分をはじく構造となっているため、蓋を開けた時にヨーグルトがつきにくくなっています。

実際の構造を分析するために、ヨーグルトがつきやすい蓋 (a) とつきにくい蓋 (b) を用意しました。まず、それぞれの光学顕微鏡像を比較すると、(a) では菱形の凹凸が並んでいるのに対し、(b) の表面には数μm ~ 20μm 程度の粒の塊が点在していることがわかります。それぞれの黄色い枠の部分において、ラマンイメージングを行い、化学構造の比較を行いました。(a) はポリエチレン(略称 PE)のみで凹凸が構成されていました。(b) では、基材はポリエチレンテレフタレート ( 略称 PET) で、粒は PE とポリメタクリル酸メチル樹脂(略称 PMMA)の2種類の樹脂で構成されていることがわかりました。(b) では、この PE と PMMA 粒子で構成された凹凸の島が、ロータス効果を生み出していると推察できます。このように、ラマンイメージでは、光学顕微鏡像ではわからないケミカル分布を観察することができます。

これらのラマンイメージは、ライン照明を用いて、X 方向 400 本のラマンスペクトルをわずか3秒間で同時取得しています。Y 方向に 300 ステップ測定することで、合計 12 万点のラマンスペクトルを約 16 分で得ることができました。従来の、1 点ずつラマンマッピングする方法では、仮に 1 点を 0.1 秒で取得したとしても、3時間以上測定する必要があり、現実的ではありません。ライン照明を用いた超高速イメージングを行うことで、2 種類の蓋の組成の違いを短時間で比較することができました。

蓋の凹凸のように高低差がある試料では、より高分解能に観察するために対物レンズの倍率を大きくすると、焦点面から外れた場所では信号が弱くなります。(c) は表面の凹凸に追従してステージを上下させる ZTrack 機能を用いて測定した例です。高倍率でも1 度の測定で、基材、粒両方の明瞭なイメージを得ることができました。

▼図1 (a)ヨーグルトがつきやすい蓋、 (b)ヨーグルトがつきにくい蓋の光学顕微鏡像(上)とラマンイメージ(下)

励起波長           532nm
対物レンズ         20 倍(NA=0.45)
スペクトル数     120,000(400 X 300)
測定時間      16 分 24 秒

(c)ZTrack像(対物レンズ50倍 (NA=0.8))

ラマンイメージの作り方

ラマンスペクトルに現れるピークは、特定の分子振動や格子振動に由来します。得られたラマンスペクトルの、特徴的な官能基のピークで色付けすることで、その分布を示すことができます。今回の 3 材料の場合、PE は、2848cm-1 付近の CH2 振動由来のピークを選択し赤で色付けすると図 (c) の分布となります。

次に、PMMA は 810cm-1 付近 CC4 伸縮振動ピークを選択し、水色で重ね書きしたものが図 (d)、PET に含まれるベンゼン環のCH 伸縮振動由来 3060cm-1 付近ピークを持つ点を青で重ね書きしたものが図 (e) となります。

このように、大量のラマンスペクトルを高速で取得し、特徴的なピークから、ラマンイメージ(ケミカルイメージ)を作成することで、簡単に材料の分布が可視化できます。

▼図2 ラマンイメージの作り方
(a) 各部位のラマンスペクトル


(b) 光学顕微鏡像

(c) PEの分布

(d) PE PMMA の分布

(e) PE PMMA PET の分布