ラマンスペクトルの解析をする際には、前もってデータ処理が必要な場合があります。 解析編の第一回は、その解析の前処理について説明します。 具体的には、宇宙線が入った場合にどのようなラマンスペクトルやラマンイメージが得られるか、そして、その除去による効果を測定データを用いて解説します。
宇宙線が入った場合のラマンスペクトル
ラマンスペクトルの検出に用いているCCDは、光信号だけでなく、宇宙空間から飛んでくる高エネルギーな粒子(宇宙線)を検出してしまいます。 宇宙線が検出されたときには、下図のラマンスペクトルのように1、2ピクセルにわたって強度の大きな信号が現れます。 特に、下図のように着目しているピークに宇宙線が入ってきた場合に問題になります。
宇宙線が混入した場合のラマンスペクトル(材料はリチウムイオン電池の正極)
宇宙線はある確率で混入されるため、露光時間が長くなればなるほど高頻度で現れます。 また、露光時間が長い測定では、宇宙線が混入した場合に何度も再測定をするのも現実的ではありません。 そのため、測定後のデータに対して処理を行い、宇宙線を取り除くということが行われます。 以下では、宇宙線除去前後のラマンスペクトル、ラマンイメージを比較して、宇宙線除去の効果を説明します。
宇宙線除去前後のラマンスペクトル・ラマンイメージの比較
宇宙線除去前後のラマンスペクトルを下図に示します。 データ処理では、宇宙線の影響のあるピクセルを自動検出して、それをメディアンフィルターによって除去しています。 宇宙線除去により、ラマンスペクトルにおいて宇宙線により生じていたシャープで強度の大きなピークがなくなっていることが確認できます。 今回の例のように評価したいピークに宇宙線が混入すると、ピークフィッティング処理をする際に精度が落ちてしまったり、多変量解析時にピーク成分として扱われてしまったりと不都合が生じます。 また、着目しているピーク以外に宇宙線が入った場合でも、スペクトルに大きな信号が乗ってくるので、人に見せる場合には宇宙線除去をしたものを利用することをお勧めします。
宇宙線除去前後のラマンスペクトルの比較。(a)コバルト酸リチウムのA1ピーク、(b)カーボンのDバンド
最後に、宇宙線除去前後のラマンイメージを示します。 黄色と白色の丸で囲った箇所は、それぞれコバルト酸リチウムのA1gピークとカーボンのDバンドに宇宙線が混入していた領域になります。 宇宙線除去前のラマンイメージでは、丸の中央に不自然に強度の大きな点がありますが、 宇宙線除去後にはそれぞれに存在した強度の大きいスポットはなくなっています。 反対に考えると、ラマンイメージを作った時に不自然に強度の大きな点があれば宇宙線が混入していると判断できます。 宇宙線が混入した場合には、測定時間に余裕があれば再測定したいですが、このようにデータ処理によっても影響を取り除くことができます。
宇宙線除去前後のラマンイメージの比較
(■:コバルト酸リチウムのA1gピーク、■:カーボンのDバンド)