第8回 きれいなラマンイメージを作る

前回の「ラマンイメージを取得する」において、ラマンイメージを作る際に各ピークを選択し色を割り当てる、という説明をしました。 このとき、選択したピーク強度の大小が色の濃淡としてラマンイメージで表現されていましたが、 きれいなラマンイメージを作るためには、ちょっとしたコツ・・・”コントラストの調整”があります。 ここでは、前回と同様に市販のグラフェン試料を使ってラマンイメージのコントラスト調整についてご紹介します。

ラマンイメージのコントラスト調整

ラマンイメージを作った際に、イメージ全体(全ピクセル)に対するピーク強度分布(強度のヒストグラム)が得られます。 例えば、グラフェンの2Dバンドを選択すると下図のような強度ヒストグラムが得られました。 ここで、ヒストグラムの横軸は強度、縦軸は頻度(その強度をもつピクセルの数)を示しています。 このヒストグラムを使いながら、ラマンイメージのコントラストを調整します。

右図のようにカラーバーとヒストグラムは対応しています。緑色で選択時には、最小値から最大値に向かって黒から緑のグラデーションとして色が割り当てられています。 ヒストグラムの最小値および最大値を選択した時のラマンイメージを示しています。 このとき、ラマンイメージにはバックグランド信号が全体に弱くのっています。

(a) ヒストグラム全体を選択

バックグランドなどの信号を除くために、分布の下端をラマンイメージの最小値に設定します。 このとき、最小値以下の値はすべて黒として表示されています。 これによって、バックグランドの微弱な信号を取り除かれるので、試料のある部分がはっきりします。

(b) 最小値として分布の下端を選択

測定後の生データであれば宇宙線が混入していたり、試料によっては一部蛍光が生じたりします。 それらの影響を除くことと、濃淡の変化を大きくして強度の大小を区別しやすくするために最大値を調整します。 分布の上端辺りを目安にして、コントラストがきつくなりすぎないように調整します。

(c) 最大値として分布の上端を選択

最後に、最大値を極端に小さくした場合のラマンイメージの例を示します。 ここでは、最大値を分布の頂点と上端の中間辺りを選択しています。 このときには、試料の有無ははっきりわかりますが、ピーク強度の大小の区別ができなくなってしまいます。

(d) 最大値が極端に小さい場合

最後にDバンド、Gバンドおよび2Dバンドの3つのラマンイメージの重ね合わせを示します。 Dバンドを青、Gバンドを赤で選択し、2Dバンドと同様にコントラスト調整すると下図のようになります。 このように、適切にコントラストを調整することで、ピークごとの色がはっきり区別できるラマンイメージになります。

適切にコントラスト調整したラマンイメージの重ね合わせ (Dバンド(青)、Gバンド(赤)、2Dバンド(緑))

ルックアップテーブル(LUT)の用途

ある特定のピーク強度や、2つのピークの強度比を評価する場合には、単色の濃淡ではなく強度に対して色を割り当てることで分かりやすく表示することができます。 この強度に対するカラーテーブルのことをルックアップテーブル(LUT, 疑似カラー表示)と呼びます。

グラフェン試料をルックアップテーブルを使用して解析した例を以下に示します。 グラフェンのラマンスペクトルでは、G/2Dの強度比が層数によって変化することが知られています。このG/2D比を下図(a)のように単色で評価するとあまり区別が付かず分かりにくいラマンイメージになってしまいます。 下図(b)ではルックアップテーブルとしてHsvを使用しています。 コントラストを適切に調整することで、赤が単層、黄色が2層、緑が3層、水色が4層、青が欠陥を含むグラフェンといったように各層に色づけすることができます。 これによって、大部分が3層もしくは4層であり、単層・2層および欠陥部分が点在していることが瞬時にわかります。 

(a) G/2Dをグレースケールで表示
(b) G/2DをLUTで表示

代表的なルックアップテーブルには以下のようなものがあります。これらの中で用途に合わせて使用するルックアップテーブルを選びます。

Cool
Fire
HSV