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メルマガ第12号
マヨネーズを酸素から守るプラスチック容器


前回、かつお節の包装プラスチックをラマン顕微鏡で測定し、ポリエチレン(PE)とポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)の多層構造を確認しました。かつお節の「包装」は中身を全て出した瞬間に「プラスチックごみ」に変わってしまうのに、単なる透明なプラスチックではなかったことが驚きでした。多層構造を見抜ける、つまり見えなかったものが見えるラマン顕微鏡の楽しさを実感し、今回も食品包装を測定します。これ、密かに「大人の自由研究」と呼んでいます。そのつもりで気楽にお読みください。(メルマガ編集長・根本毅/フリーライター)

プラスチックの断片をスライドガラスに載せ、測定の準備をする島端さん

前回に続き、サービス担当の島端要典さんに測定していただきました。ナノフォトンのレーザーラマン顕微鏡「RAMANtouch」を使用するため、サンプルを切ったりせずに深さ方向の測定ができます。分かりやすく言えば、体を切らずに断面の画像が得られるCTスキャンに似ています。今回も、サンプルの準備にあまり手間がかからず、測定もサンプル一つにつきわずか数分で終わりました。

まずは、スライスされたハムの包装フィルムです。

ハム包装フィルム。ポリプロピレン、PET、ポリエチレンの3層構造

分析の結果、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)の3層が確認できました。前回測定したかつお節の包装と同じ構造です。

では、それぞれの層はどのような機能を担うのでしょうか。ネットで調べていると、日本プラスチック工業連盟のパンフレット「食品用プラスチック容器包装の利点」を見つけました。

パンフレットには、かつお節やハムなどの包装材料の構成例や各層の機能が示されています。今回の我々の測定は構成例と一致しませんでしたが、ポリプロピレンは防湿性や帯電防止性(かつお節の静電気による飛び散り防止)、PETは剛性や保香性、ポリエチレンは接着の機能を担っているようです。

次に測定した豆腐のふたのフィルムは、ポリアミド(PA)とポリプロピレンの2層でした。これはパンフレットの構成例(豆腐のふた材)とほぼ一致しました。ポリアミドの機能は強度、酸素バリア性、表面の張り適性とあり、ポリプロピレン(資料ではPE・PP)はシール性などが挙げられています。

豆腐フィルム。ポリアミド、ポリプロピレンの2層構造

パンフレットには「豆腐は古来良質の植物たんぱく源として知られていますが、壊れやすく、保存期間が短いことから、欲しいときに都度、入れ物を持って豆腐屋さんへ買いに行ったものでした。プラスチックの豆腐パックが開発されてからは、保存性の要求を満たし、衛生的で安価な豆腐をいつでも買えるようになりました」と記されています。

次は納豆のふたです。多層構造で臭いの漏れを防ぐ工夫をしているのではないかと期待したものの、単層のポリプロピレンという結果でした。

納豆フィルム。ポリプロピレンの単層構造

ここで、NHKの朝の情報番組で取り上げられていた話題を思い出しました。臭いが漏れにくく災害時の避難所生活などで役立つ袋として、食パンの袋が紹介されていたのです。食パンの袋もポリプロピレン製。番組では「ポリエチレンに比べ、気体を2分の1から3分の1ほどしか通さない」との説明でした。ただ、ポリプロピレンのガスバリア性(気体を遮断する能力)は数あるプラスチック素材の中で際だって高いわけではなく、厚さや添加剤などで工夫をしている可能性があります。

さらにさまざまな包装を測定したものの、どれも同じような結果でした。「もう少しバリエーションがあったらなぁ」と思っていると、島端さんが後日、追加でマヨネーズの容器を測定してくれました。表層部分で新たにEVOH(エチレン-ビニルアルコール共重合体)が測定できたと一報をもらい、思わずガッツポーズです。

マヨネーズ容器の表層部分。ポリエチレン、EVOH、ポリエチレンの3層が分かる

このEVOHは非常に高いガスバリア性を持ち、ネットでは「プラスチックの中で最大のガスバリア性」と紹介しているサイトもあります。日本プラスチック工業連盟のパンフレットでも、食品の酸化や風味の低下を防ぐために使われるとあり、気になっていました。再び、パンフレットから引用します。

「マヨネーズの容器は、以前はガラスびんしかありませんでしたが、割れにくく、軽く、形状が自由で、しぼり出しやすいプラスチックのブロー成形ボトルが開発されました。現在では中味の品質を保持するため、プラスチックの多層化で酸素の遮断性を向上させたボトルになっています」

プラスチックにはたくさんの種類があり、それぞれの機能を組み合わせて食品の風味や新鮮さなどの品質を守っています。「現在の食文化はプラスチックに支えられている」とも言えるでしょう。ただ、便利さの一方で、プラスチックの高機能化=多層化がリサイクル(マテリアルリサイクル)を難しくしている現実も知っておくべきです。プラごみにはいろんな素材が混じっているのですから、熱で溶かして固めればまたプラスチックとして使える、というわけではありません。

さまざま種類の素材が混在したプラごみ

ラマン顕微鏡で包装プラスチックの多層構造を「見える化」したからこそ、プラスチックの機能についてあれこれ調べ、考えることができました。見える化、すなわちイメージングって大事です。これからも、機会があれば「大人の自由研究」に取り組みます。