メールマガジンEmail Magazine
食品の測定③
菓子パンのクリームをラマン顕微鏡で測定するシリーズの3回目です。これまでに、クリームに含まれる脂肪分や水分、糖、空気などの分布を画像化したり、液糖の正体を調べてみたりしました。今回は、コンビニで買ってきた3種類の菓子パンのクリームを測定し、その違いからどんなことが分かるか大学の研究者に見てもらいました。あくまでも「大人の自由研究」です。気軽にお読みください。(メルマガ編集長/フリーライター・根本毅)
今回も、東京ショールームのセールス&アプリケーションズエンジニア、青木克仁さんに測定などの協力をお願いしました。複数のコンビニでクリーム入りの菓子パンを買ってきて、白いクリーム部分を測定してくれました。下にデータを示します。どのデータがどのパンに対応するかは、秘密にしておきます。
このデータを、広島大学大学院統合生命科学研究科の上野聡教授に見ていただきました。
上野教授は食品物理学が専門。食品脂質の物性、特に結晶化を研究しています。「例えば、チョコレートやマーガリンなどの硬さや融点、結晶構造を調べて、品質との関わりを分析しています。品質は、チョコレートだったら口の中でとろけるとろけ具合や硬さを指し、温度によって硬さがどう変わるか、などを調べます。また、劣化も研究対象。例えば、チョコレートは時間がたつと表面が白くなりますが、その劣化の原因が分かれば対処の方法を考えることができます」
まず、クリームのデータを見た感想をお聞きしました。「食品の安定性、特にクリームなどエマルションという食品の安定性も調べていますが、ラマン顕微鏡のデータは気泡が鮮明に見えていて、非常に興味を持ちました」
それでは、このデータから何が分かるのでしょう。「Cは、黒く見えている気泡が細かく、まんべんなく広がっています。いわゆる『ネットワーク構造』を形成していることが顕著に分かります。ネットワークができていると気泡が長くとどまり、滑らかさやふわふわ感が維持されます」
「従って、C≫B>Aの順に、気泡が長期間、クリームにとどまり、クリーム独特の滑らかさやふわふわ感を維持すると思われます。また、クリームの形を保つ保形性も、この順で長持ちするでしょう」
上野教授によると、水と油(脂肪分)はそのままでは分離してしまいますが、水と油の仲立ちをする乳化剤の働きで、目に見えないほど小さな油の粒が水分中に分散した状態、すなわちエマルションという状態になっています。それがクリームです。クリームのソフト感は、気泡がいかに保たれるか、つまりネットワーク構造が作られているかが重要になります。エマルションの状態が崩れて水と油が分離すると、気泡も保たれず、ソフト感が失われて油っぽさを感じるそうです。
実際にクリームをなめて、ふわふわ感を比べてみると、上野教授の「予言」の通りでした。もちろん、どのデータがどのパンかを知らない状態で食べ比べ、後で答え合わせをした結果です。
上野教授は「この業界ではラマン顕微鏡はあまり普及していないと思いますが、気泡と水分、結晶などを明確に可視化できるのが非常に優れています。今後、注目されるかもしれません」と話してくださいました。