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食品の測定②
今回は、ラマン顕微鏡を使った「大人の自由研究」の続きです。前回の自由研究では、コンビニの菓子パンのクリームをラマン顕微鏡で測定し、脂肪分や液糖、空気などの分布を画像化しました。ただ、糖にもいろいろあります。そこで、さまざまな糖の水溶液やシロップを測定し、菓子パンのクリームから検出された液糖のラマンスペクトルと似ているものがないか、調べることにしました。(メルマガ編集長/フリーライター・根本毅)
まずは前回のおさらい。
コンビニで菓子パンを買い、中のクリームを測定したところ、脂肪分や液糖(糖+水)、空気の分布が分かりました。
下の画像が、分布を示すラマン顕微鏡像です。
今回は、「液糖」と判断した成分について調べるため、スーパーで糖やシロップを購入し、ラマンスペクトルを測定しました。前回に続き、東京ショールームのセールス&アプリケーションズエンジニア、青木克仁さんに測定や分析、解説をお願いしました。測定したサンプルは次の通りです。
・スクロース(コーヒー用スティックシュガー)水溶液
・グルコース(ブドウ糖)水溶液
・果糖ブドウ糖液糖(ガムシロップ)
・乳糖果糖オリゴ糖水溶液
・麦芽糖水あめ
・ノンカロリーシロップ
それぞれ、どのようなラマンスペクトルが得られたでしょうか。パンのクリームも含めて、結果を下に示します。
ラマンスペクトルのうち1500cm⁻1以下の部分は「指紋領域」と呼ばれ、分子の違いが明確に現れます。指紋領域を拡大して見てみましょう。
650cm⁻1以下の領域では、糖の種類によってピークの現れ方が大きく異なっています。このことから、650cm⁻1以下の領域のスペクトルを見れば、コンビニのパンのクリームにどの種類の糖が主に含まれているかが推定できます。
では、細かく見比べてみましょう。
ラマンスペクトルのピークの位置や高さの関係を比べると、コンビニのパンのクリームで検出された液糖に一番似ているのは、スクロース水溶液だと分かります。特に、破線で示したピークは、他の糖ではピーク位置がずれていたり現れていなかったりしています。このため、コンビニのパンのクリームで水に溶けていた主な成分はスクロース(砂糖)だと推定できました。
今回のように未知の成分を調べるときは、未知成分のスペクトルと既知物質のスペクトルを比較して、同定を行います。
青木さんは
「成分同定では、市販のスペクトルライブラリも使用できます。また、市販のライブラリにスペクトルが収録されていなくても、ある程度成分の予想ができる場合、今回のようにそれらの成分候補をあらかじめ自分で測定し、自前のライブラリを構築しておけば、似ているスペクトルを検索できます。糖は、水溶液か結晶かによってスペクトルの形状が大きく変わるため、自前のライブラリを作っておくと便利です。同様の例として、工場での異物検査があります。混入の可能性がある異物についてラマンスペクトルを一通り測定しておくと、異物の成分や混入源を特定しやすくなります」
と説明しています。
液糖成分に乳糖(ラクトース)も含まれている可能性がありますが、スーパーでラクトースを入手できなかったため今回は測定を見送りました。ただ、ラクトースはスクロースより水に溶けにくく、含まれていてもスクロースより少ないと考えられます。
ところで、ノンカロリーシロップだけは、ラマンスペクトルの形状が他の糖やシロップと大きく異なり、水とよく似ていました。ノンカロリーシロップと水のスペクトルの差を計算すると、溶けている成分のピークが見えます。
ノンカロリーシロップのパッケージには、原材料としてエリスリトール、アセスルファムK、スクラロース、キサンタンガム、ビタミンCが記載されていました。差スペクトルには、これらのピークが混在して現れていると考えられます。