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会長インタビュー
「ナノフォトンは環境分野へ」


 2003年2月に大阪大学発ベンチャーとして創業したナノフォトンは、現在第19期。創業者の河田聡・代表取締役会長兼社長(大阪大学名誉教授)が「会長室から」で述べていますが、今期は売上額3割増、売上台数3割増、対売上比利益率12%維持を掲げています。では、長期的にはどのような方向に進もうとしているのでしょうか。河田会長にざっくばらんに話していただきました。(メルマガ編集長/フリーライター・根本毅)

インタビューに応じる河田会長

──創業して18年以上が過ぎました。

 この18年で、社会環境やみんなの生活パターンが大きく変わりました。iPhoneが発売されたのは2007年だから、2003年にはiPhoneすらなかった。当時は電車の中で新聞を読んでいた人たちが、今はiPhoneを見ています。18年でこれだけ社会環境が変わったのだから、これからの18年でさらに社会は変わるだろうし、変わるべきです。今、ある種のターニングポイントにあると思いますね。

──これまでの18年の変化のポイントはなんでしょう。

 テクノロジーの進歩もありますが、テクノロジーの使い方ですね。やっぱり、ネットが進みすぎたのでしょう。情報の流通が速すぎます。コロナウイルスは、感染が広がるより先に恐怖が感染していきました。

 今、みんながインターネットを使いまくっていますが、この状況は良くないと思っています。ものを考えずに人の仕事ばっかり調べるようになり、個性がなくなります。自分の頭の中から生み出すのが大事なのに、ネット検索ばかりしていたら何も生み出せない。僕はできるだけインターネットから離れて、グーグルフリーで生きられるのがいいと思います。できていませんけど。

──今後、ナノフォトンはどのような製品を作っていくのでしょうか。

 社会は、環境をいかに守るかというところに移っていくべきだろうし、移っていくでしょう。我々ナノフォトンも、マイクロプラスチックを分析する装置だとか、食品の安全性を守るための装置だとか、社会を不安定にする要素である爆発物や毒薬を検出する装置だとか、そういう製品開発の方向に進むべきだと思っています。

──確かに、電気自動車への転換など、世界は環境保全の方向に向かっています。

 ただ、僕は電気自動車には反対なんですよ。ガソリン車を電気自動車に買い換えるのではなくて、できるだけ自動車に乗らない主義です。エネルギーを無駄に使うべきではありません。

 コロナの影響でインターネットを使った在宅勤務が広がりましたが、できればみんな歩いて会社に来て、互いに会話をして、健康な精神状態を保つのがいい。1人で車に乗るより大勢が1台のバスに乗った方が経済的なのと同じで、1人ずつが自宅でエアコンを付け、ネットに接続して仕事をするよりは、会社に集まった方が経済的です。僕が重視するエコは省エネの方。新エネルギーによる発電所を増やすのではなく、むしろ減らす方向です。ガソリンを電気にしたらいいとは必ずしも思いません。

 こうした省エネに貢献する「地球に優しいナノフォトン」を目指したいと考えています。ナノフォトンのRAMANwalkというラマン顕微鏡は、ハイパワーのレーザーを使わないためRAMANtouchより省エネなんです。価格も安いけれど、最適な経路でレーザービームを走査してそれなりの画像が速くとれます。ナノフォトンの装置は、もっともっと省エネにしようとしています。

──このインタビューの前に経営会議を傍聴させていただきましたが、移動してデモ測定をするキャラバンを検討しているということでした。これも今後のナノフォトンの戦略ですか?

 とにかく持ち運びできるようにしたいんです。自動車にラマン顕微鏡を載せて、各地に行ってそこでデモ測定してもらう。ラマン顕微鏡を送ってもいい。そのためには、小さくして、軽くして、安くして、使い勝手を良くする。動かしても大丈夫、もっと言うと落としても壊れない装置にしたいんです。これは省資源にもつながります。

 省電力にするには、測定時間を短くすればいいんです。それから、装置を使えるようになるまでのトレーニング時間を短くするんです。さらに、最初の立ち上げのパラメーター設定もほとんどなしにする。ユーザーが使いやすくなるということは、仕事時間が長くならないから省エネになります。

──ユーザビリティーと省エネ・省資源を結びつけて考えたことはなかったのですが、確かに使いにくくて測定に時間がかかるとそれだけエネルギーを使いますね。

 測定に3日かかっていたのを10分に短縮できたら、大変な省エネです。人件費も安くなります。省エネや環境という言葉はありきたりかもしれませんが、次の時代が求めるのはそういうことじゃないかと思います。だから、産業廃棄物を出さない製品、リサイクルできる製品、電力を消費しない製品、持って運ぶのに簡単な製品を作りたいんです。

──会社のあり方も変えていくのですか?

 社員は、給与を成果報酬型か固定型か選べるようにしています。成果報酬型を選べば、自分はこういうことに挑戦したいと宣言して、それを果たせば給与が上がります。何台売っていくらもらう、という成功報酬ではありません。だから、管理業務の人も成果報酬の対象になります。

 こうするのは、平均給与を今の2倍にしたいからです。給与を上げないと、有能な人はとれません。ただ、一律に給与を上げるのではなくて、頑張ったらもっといい思いができますよ、ということです。

──社員も増やす計画ですね。

 2倍にします。一方、販売台数はそれ以上に増やす計画です。その分、外部委託を徹底します。会社が阪大内にあったころは製品を100%自分たちで作っていましたが、今は完全に外部に委託しています。