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熟練への道_4 
レーザー光の波長を変えてみる


 素人がラマン顕微鏡の操作にチャレンジするシリーズの4回目です。ナノフォトンのレーザーラマン顕微鏡は、測定したい物質にレーザー光を照射し、そこから出てくるラマン散乱光をキャッチして物質の情報を読み取る装置。レーザーには複数の波長があり、導入時にどの波長のレーザーを搭載するか選択できます。さらに、複数種類を搭載して切り替えて使うことも可能です。ただ、私はその理由を全く知りませんでした。そこで今回は、光源であるレーザーを切り替える手順と、複数のレーザーがある理由を教えてもらいました。キーワードは「蛍光」です。(メルマガ編集長/フリーライター・根本毅) 

 素人の私にとって、複数のレーザーを搭載する理由は不明でした。

 アプリケーション担当の社員に尋ねると、「いろいろな物を観察する、または蛍光が発生するような試料を含む場合には、あらかじめ複数の光源(レーザー)を入れるようにします」とのことです。蛍光があるとラマン散乱光が蛍光に埋もれてしまうため、レーザーの波長を切り替えて蛍光を避けるのだそうです。

 では、実際に操作しながら教えてもらいましょう。たまたま近くにあったプラスチックを測定してみます。

 まず、532nm(緑)のレーザーで測定してみます。

 これは蛍光が出てしまって、ラマン散乱光が測定できていない状態だそうです。

 そこで、今度は785nm(近赤外)のレーザーに切り替えて、測定してみます。切り替えは、ソフトウエアから簡単にできました。

 ソフト上で簡単な較正作業をした後に測定すると、さっきとは違う結果が。

 2種類のレーザーによる測定結果を比べると、下のようになります。蛍光があるとラマン散乱光が埋もれてしまうことが分かりますね。

 では、なぜレーザーを変えることによって蛍光の影響を避けられるのでしょう。

 「蛍光は出現する波長域が固定していて、励起光を変えても同じ波長域に出現します。一方、ラマン散乱光で得られる信号は励起光とのエネルギー差を示しており、励起光である光源(レーザー)の波長を変えると、ラマン散乱光の波長もずれます。このため、蛍光が現れない波長域の励起光でラマンを観察すれば、蛍光に邪魔されずにすみます」(前出の社員)

 分かりやすいように、横軸を波長にして2種類のレーザーで観察したスペクトルを見てみましょう。緑が532nmのレーザー、青が785nmのレーザーを使った場合です。

 ラマン顕微鏡導入時には、観察する目的の試料に合う光源を選択する必要があります。このため、アプリケーション担当グループは、デモ測定を行って最適な励起光源を提案するようにしているそうです。

 ちなみに、測定したプラスチックのデータを「KnowItAll」というソフトで検索したところ、ポリスチレンだったとすぐに分かりました。やはり、すごいですね。これまでにも何度かラマン顕微鏡で物質の同定をしていますが、感動はまだ薄れません。