メールマガジンEmail Magazine

篠原監査役に聞く
数々の大学発ベンチャーの起業を支援


 ナノフォトンの篠原祥哲(よしのり)監査役(86)は、2003年2月のナノフォトン設立時からのメンバーです。大阪大学大学院経済学研究科修士課程を修了後、1963年に公認会計士登録し、朝日監査法人(現あずさ監査法人)の副理事長や代表社員相談役などを歴任しました。退任後の2002年11月、NPO法人おおさか大学起業支援機構を設立して代表理事に就任し、ナノフォトンなどさまざまなベンチャーの起業支援を手掛けています。大学発ベンチャーへの思いなどをお聞きしました。(メルマガ編集長/フリーライター・根本毅)

──なぜ公認会計士になろうと考えたのですか?

 阪大の経済学部に在学中、中西寅雄教授という先生がいました。日本の原価計算制度や公認会計士制度の創始者とも言うべき方です。人格的にも尊敬できる方で、ゼミに入れてもらいました。その中西先生が「日本の公認会計士制度がこれからものすごく大切になる」と教えてくれたので、公認会計士になることにしました。私は新しいことが好きですからね。

 試験を通過したのが1959年。それから60年以上やっています。公認会計士の草分けみたいなものです。

 最初は登録番号12番のえらい先生に弟子入りし、何社かの監査証明の責任者をやりました。日本の産業が起きてくる非常にいい時期に関与しましたね。当時は全体が右肩上がりだったので、期ごとに収支に波があってもぜんぜん心配はしませんでした。

──朝日監査法人(現あずさ監査法人)は門外漢の私でも名前を知っている大手です。合併してできた時に、専務理事に就任されていますね。

 最初は監査法人大和会計事務所に所属しました。大阪で学者が集まって作った監査法人です。それから合併を繰り返し、ど真ん中に入っちゃいました。

──退職されて、大学発ベンチャーに関わるようになったのはなぜですか?

 日本の産業をずっと見てきましたが、技術をちゃんと社会に生かしていく会社が大きく成長し、日本の産業を支えてきました。だから、日本の産業のことを考えるなら、ベンチャーを育てないといけない、という発想です。当時は大学、特に国立大学の先生が金もうけをするのはおかしい、という時代でした。さらに、大学の技術と商品化の間には深い谷があり、なかなか越えられません。それを橋渡ししよう、大阪大学の技術を社会で生かそう、と考え、おおさか大学起業支援機構というNPOを作りました。

──具体的にはどんな支援ですか?

 会社を作ってあげることから、資金調達や知財の問題とか。特に、技術をいかに商品化するか、という手伝いですね。

──NPOを立ち上げて間もなく、ナノフォトンの創業に関わりました。どのような経緯ですか?

 河田さん(ナノフォトン会長、大阪大学名誉教授)と知り合い、起業したいと言うから「応援するよ」と始めました。河田さんは国際学会でも著名な人で、素晴らしい技術を持っています。さらに、この十数年で経営者としてもだいぶ成長しました。実務がだいぶ分かってきました。河田さんのように実務もできる人は珍しいですね。

──ナノフォトンの技術を理解するのは相当難しいと思います。

 難しいけど、面白い。今、顕微鏡と言ったら、ラマン顕微鏡という時代です。

──経済学を学んで公認会計士になられましたが、技術のことも好きなんですか?

 好きですね。高校では数学と物理が得意中の得意でした。論理的に考えることが好きです。もともと工学部に進もうと考えていましたが、京都大法学部に行っていた親戚に相談すると「文系の方がいいに決まっている」と言うので、受験直前に志望を変えました。経済学も数学ですからね。だから、技術に関しては何の抵抗もありません。

──大学発ベンチャーの重要性は増してきていますか?

 そうですね。企業は短期間で利益を出すように求められるので、10年もかかるような長期的な基礎研究ができなくなっています。一方、大学にはものすごくたくさんの技術がある。だから、大学との共同研究やコンソーシアムを組むことがものすごく重要になっています。今、共創という言葉がはやっていますね。もっと大学にある技術を生かさないといけないと思います。

──おおさか大学起業支援機構は株式会社の起業だけでなく、社会事業も手掛けてますね。

 はい。社会起業支援として、「劇団昴一般社団法人」や「堺シティオペラ一般社団法人」、「公益社団法人子どもの発達科学研究所」などの設立に携わっています。

──社会貢献には以前から関心があったのですか?

 お金もうけも大切ですが、お金だけ追いかけていたら仕事になりません。やっぱり、社会をよくすることができないと。これからも、できる範囲で社会をよくするために活動しようと思います。