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挑戦する社員たち
「自分のアイデアで新製品を」 研究開発担当、齋藤広大さん


ナノフォトンは2003年の創業以来、新製品の開発に挑戦し続け、他社にない製品を次々と発表しています。開発を担うのが、同社の研究開発担当。今回は、2018年に入社した齋藤広大・主任研究員に新製品の開発状況や入社の経緯を聞きました。(メルマガ編集長/フリーライター・根本毅)

TERSの原理を説明する齋藤広大・主任研究員

──ラマン顕微鏡は、試料中の分子から出る微弱なラマン散乱光を測定し、分子の分布を画像で示す装置です。これまで、ライン照明という新技術を搭載して高速測定を可能にしたRAMANtouchや、光の回折限界を超える高い空間分解能を実現したTERSsenseなど、数々の新製品を世に出しています。次はどんな新製品が発表されるのでしょうか。

詳しくは言えないのですが、あるアイデアがあり、具体化できるかどうか原理検証のための実験を準備している段階です。

──開発成功の知らせを楽しみに待ちます。齋藤さんは2年半前に入社して以来ずっと、研究開発に携わっているのですか?

いえ、入社して半年後ぐらいから、製造の手伝いもしました。製造の業務が多くなったので「話が違うよ」とも思ったのですが、もともと物を作るのは好きでしたし、開発のためのいい勉強になりました。製品の中味が分からないと開発はできません。製造の業務で実際にRAMANtouchの組み立てをして、「ライン照明の技術をこんなにコンパクトな装置に入れたのは凄い」と感じました。いろいろなところに工夫があり、他社にはなかなかまねができないだろうと思います。

──出身は慶應義塾大学ですが、その頃からラマン顕微鏡に触れていたのですか?

もともと光はやってなかったんです。大学は理工学部の物理学科に進み、学部4年から2011年に博士号を取るまで物性物理の研究室に所属しました。物性物理の中でも、低温物理といって、絶対零度付近まで物質を冷やしてその性質を研究する分野です。僕はその研究室で、低温環境で動作する原子間力顕微鏡(AFM)を開発しました。それを使って何か新しい物理を測ろうと、超伝導体表面のナノスケールの摩擦の測定に取り組みました。

──原子間力顕微鏡って、どういうものですか?

ナノサイズにとがった針を試料の表面に近づけ、針と試料の間に働く原子間力を測定することで形状を測定する装置です。室温で動くAFMは販売されていますが、極低温環境で動くようなAFMはなかなか手に入りません。そこで、自分で作りました。

「AFMは、ナノサイズにとがった針で試料の表面をなぞり、形状を測ります」と説明する齋藤主任研究員

──ラマン顕微鏡とはどうやって出合ったのですか?

大学院生の時、「AFMで今後、どんな研究ができるだろう」と考えていました。AFMはナノサイズの試料の形状を測ることには優れているのですが、それ以外の情報も測定できたら面白いと思っていました。そんな時に、他の学科の同期の研究発表で、表面増強ラマン散乱(SERS)について聞く機会があったんです。SERSは、金などの粒子で表面がでこぼこになった基板に分子を付着させると、その分子のラマン散乱光が増強される現象です。当時、僕はラマンのことも、金属で増強効果があるなんてことも、ぜんぜん知らなかった。感動したというか、刺激を受けました。

その時に直感的に、これをAFMの針の先でやったら面白いのではないかと漠然と思いました。まさにそれが先端増強ラマン散乱(TERS)なのですが、その時には既に発明されていたなんて知りません。大学院の後、ポスドクで超伝導の研究をしている時期に、AFMと光を使って新しいことができないかと「AFM」「ラマン」「SERS」などのキーワードで検索していると、TERSというのが出てきて「何じゃこら」と驚きました。

調べてみると、こういう技術が既に存在していたと分かりました。さらに調べると、どうやら河田聡という人が発明したらしい。大阪大にいるようだ。それ以降、ネットサーフィンのついでに阪大の河田研のホームページを見るようになりました。分野外ということもあり、まさかその後に河田研のポスドクになり、河田先生が創業したナノフォトンに入社するなんて思ってもいませんでした。

──それなのに、なぜ河田研に?

ポスドクとして所属していたのは、産業技術総合研究所(産総研、茨城県つくば市)だったのですが、4年間のプロジェクトが終わる頃にたまたま、河田研のTERSのプロジェクトでポスドクの募集がありました。その条件が狭いんです。AFMかSTMの自作経験があり、電子回路や真空技術に精通する人という感じで。「これはチャンスだ」と応募すると、ありがたいことに採用していただきました。プロジェクトに参加したのは2015年からです。

──その縁でナノフォトンに?

その時のプロジェクトが、ナノフォトンと共同で深紫外のTERSを作るというものでした。プロジェクトの成果の一部は、紫外・深紫外レーザー走査ラマン顕微鏡RAMANtouch vioLaと、広帯域反射型対物レンズsumiléとして製品化されています。ナノフォトンのメンバーと一緒に仕事をして、非常に技術力が高いと分かったので、自分のスキルアップのためにもナノフォトンで働きたいなと思いました。新しい装置を日々開発しているイメージがあり、楽しそうだな、と。

──産総研では装置の開発から離れていましたが、また装置の開発に戻ったのですね。

河田研にポスドクで来てから、再び装置の開発をしています。物を作る方が好きです。そういう仕事ができるのは楽しいですね。

──今後やりたいことは?

ナノフォトンのTERSは透過型で高分解能かつ高感度なのですが、不透明な基板上の試料にも対応したいので反射型のTERSを作りたいという思いをずっと持ち続けています。ただ、反射型は難しいと言われています。この他にも、自分のアイデアで新製品を生み出していきたいですね。