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大人の自由研究
前回に続き、冷却加熱ステージを使って測定してみます。目を付けたのはマヨネーズ。マヨネーズを凍らせて溶かすと、水と油が分離してしまいます。この現象をラマン顕微鏡で追うと、どのように見えるのでしょうか。今回も、ナノフォトン東京ショールームの青木克仁さんに測定してもらいました。(メルマガ編集長/フリーライター・根本毅)

マヨネーズは食用油、酢、卵が主な材料。油と水(酢)は本来、混ざり合わずに分離してしまいますが、卵の成分のおかげで油の細かい粒が水分中に分散している状態になっています。つまり、乳化されています。
しかし、1度凍らせて常温に戻すと、水と油が分離してしまいます。経験がある人も多いのではないでしょうか。分離してしまうと、元には戻りません。
分離の様子をラマン顕微鏡で測定するには、試料を冷凍庫の温度に下げる必要があります。今回も、専用機器を販売するジャパンハイテック株式会社に「顕微鏡用ペルチェ式冷却加熱ステージ」をお借りしました。液体窒素を使わずに電子冷却でマイナス40℃まで下げることが可能。レーザーラマン顕微鏡RAMANtouchに取り付けて、測定してみました。

マヨネーズは、市販のものではなく、青木さんの手作りです。ラマン画像の測定は、室温(25℃)、-20℃、-15℃、-10℃、-5℃、0℃、5℃、室温(25℃)の順に行いました。温度を変化させるときは10℃/分の速さで変化させ、測定中は温度を一定に保ちました。
室温(25℃)では、球状の脂質(食用油)の周囲に水分があり、乳化状態だと分かります。これを-20℃に冷却すると、水分が凍結しました。
ここで、前回のおさらいです。水と氷のラマンスペクトルを測定すると、一番強いピークの位置が変わるため、ラマン顕微鏡で水と氷を見分けられます。

さて、さらに5℃ずつ温度を上げて測定してみます。

-10℃に温度を上げると、油の粒の形が崩れはじめました。油の間に氷があるのが分かります。
-5℃では、氷の粒が大きく成長しているようです。油の間に水分が分布しています。さらに温度を0℃に上げると、氷の粒が溶けて水の状態になりました。

さらに温度を5℃、25℃に上げると、油と水がそれぞれ大きなかたまりとなっています。完全に分離しました。
-5℃のラマンスペクトルを見てみましょう。

各成分は、矢印(↓)で示すピークの面積により色付けをしています。脂質は2854 cm-1、氷は3150 cm-1、水は3190~3520 cm-1付近です。
同じ領域の光学顕微鏡像はこうなっています。

見えている粒は何なのか、光学顕微鏡像では分かりませんが、ラマン顕微鏡による測定で油ではなく氷の粒だと明確に見分けられています。
今回は、マヨネーズを凍らしてから溶かすとラマン顕微鏡でどのように見えるか、実際に測定してみました。でも、なぜ凍ると分離してしまうのでしょう。可能であれば、ぜひ調べてみることにします。