メールマガジンEmail Magazine

大阪ショールーム
「科学者維新塾」を開催


 ナノフォトンの河田聡・代表取締役会長兼社長が主宰する「科学者維新塾」の講義がナノフォトン大阪ショールームで開催され、医師で参議院議員の梅村聡さんが講師を務めました。大阪ショールームを会場に利用したのは今回が初めて。科学者維新塾は2009年に始まり、博士号を持つ人や博士を目指す人たちが塾生として参加しています。この日は、梅村議員が政治の世界に入った経緯や、新型コロナウイルス感染症対策についての考えなどをテーマに講演は進み、外が暗くなるまで議論が続きました。(メルマガ編集長/フリーライター・根本毅)

 科学者維新塾は、博士や博士を目指す人たちを、世に貢献する人材へと醸成する目的で開かれた塾です。科学者の道にとどまらず、さまざまな世界に進むための指南と実践を目指し、各分野で活躍する人を講師に招いて大阪と東京で定期的に開催しています。

講義の前に、ナノフォトンのラマン顕微鏡について河田会長(左)から説明を受ける梅村議員

 今回の講義は、東京と大阪の科学者維新塾の合同企画。ナノフォトンの大阪ショールームで開催し、10人が集まりました。東京のメンバーはオンライン参加です。

 講師の梅村議員は大阪府堺市生まれの46歳。出身大学は大阪大学で、中学・高校も含めて河田会長と同じです。2001年に医学部を卒業後、箕面市立病院や阪大医学部付属病院で診療に従事しました。2007年の参院選大阪選挙区に出馬して初当選し、2019年の参院選で2回目の当選を果たしました。現在、日本維新の会に所属しています。

 科学者維新塾での講義は8年ぶりです。前回の2013年12月は「理系博士が政治家になる」と題して話しました。今回は「医師・政治家から見たコロナと政治の危機」がテーマです。

講義の様子

 印象に残ったのは、梅村議員が阪大で行っていた研究の話です。梅村議員は内科に所属し、専門はメタボリックシンドロームでした。現在、腹囲は男性なら85センチ、女性なら90センチが基準です。私も、ある年からこの基準を超えてしまい、特定保健指導を受けました。この基準を作ったのが、梅村議員が所属した研究室です。

 ところが、梅村議員は「今でこそ日本人全員の健康診断に使われますが、我々の研究室は違った目的で作ったんです」と話し始めました。

 従来、内臓脂肪が増えれば増えるほど、血圧や血糖値、中性脂肪の値が上がることは分かっていたそうです。このような関係があるため、内臓脂肪が多い人は運動や食事制限で内臓脂肪を減らしさえすれば、高血圧などは改善します。注意が必要なのは、内臓脂肪がたまっていないのに血圧などの数値が悪い人。生活習慣を改善しても効果は見込めず、薬に頼るしかありません。

講義する梅村議員

 梅村議員は「僕がいた内科の研究室は、ウエストが何センチ以上だったら痩せることを優先して、何センチ以下だと痩せても意味がないから薬を飲むことにするのか、という基準探しをしました。それが男性85センチ、女性90センチなんです。我々の血と汗と涙と睡眠の結晶で作ったデータです。しかし、国は85センチ以上はメタボリックシンドロームという病気だと言い始めました。使い方が違います。我々からしたら、85センチ以下の人の方が、薬による治療が必要なので深刻なんです」と説明しました。

 話はその後、政治の世界に入るきっかけとなった出来事に移ります。

 ある日、阪大に参議院議員が見学に訪れ、梅村議員が同行することになりました。その時にこの参院議員から「医療の世界で困っていることはないか」と尋ねられ、梅村議員は福島県立大野病院事件の話をしました。2004年に同病院で帝王切開手術を受けた女性が亡くなり、1年以上たった後に執刀医が逮捕、起訴された事件です。執刀医は2008年に無罪判決が確定しています。

東京のメンバーはオンライン参加

 梅村議員はこの議員に対し、「亡くなったのは大変なことだと思いますが、逃亡や証拠隠滅の恐れがないのに逮捕され、その姿が全国に流れました。日々、命を扱っている側から言えば、結果が悪いということだけで警察に連れて行かれ、殺人罪とごっちゃにされる状況はおかしいんじゃないでしょうか。放っておいたら誰もリスクを取る医療をしなくなります」という説明をしたそうです。実際に、産婦人科を志望する医学生も減っていました。

 この議員はその後、末期がんが判明し、翌年の参院選出馬を断念しました。そして、阪大でのやりとりを覚えていたのでしょう。梅村議員に出馬を依頼したのです。断り続ける梅村議員のもとを、この議員が説得に訪れました。「もし私の議席を他の人が埋めることになれば、たぶんその人は梅村さんがおっしゃっていた政策はやらないでしょう。医療の中で人が逮捕されるということを防ぎたいのであれば、ここの議席に来るのが何よりも近道ではありませんか」。その言葉に、出馬を決めたそうです。

 このほか、議論は新型コロナや医療、政治、メディアの問題などにも及びました。新型コロナに関しては、保健所が全例に対応して目詰まりを起こしている現状を指摘し、「8割以上は軽症か無症状だが、誰が重症化するか分からないというのが新型コロナ。検査で早期発見し、早期治療することが大切です」と述べました。

 また、「政治の世界に行くのが嫌だと思うかもしれませんが、理系が政治の世界に行くことは意味があります」とも。政治の世界にこそ、理系的思考のトレーニングを受けた人が必要であるのだと、私も思いました。もしもこのメンバーから政治を志す人が現れたら、今回の講義がきっかけだったことになりますね。