メールマガジンEmail Magazine
インタビュー
ナノフォトンのマークとロゴタイプは、デザイナーの川崎和男さん(72)が手掛けました。私にとって、川崎さんと言えば、学生時代に愛読したMac専門誌「MACPOWER」のコラムの筆者。詳しい内容はあまり覚えていないものの、「すごい人」という印象が強く残っています。約25年たち、名前を聞いてすぐに「もしかして、あのコラムの」と思い出したほどです。今回、リモート取材に応じていただき、ドキドキしながらお話をうかがいました。(メルマガ編集長/フリーライター・根本毅)
デザイナー、医学博士、名誉教授……
川崎さんは、デザインディレクターや医学博士、大阪大学名誉教授、名古屋市立大学名誉教授など多彩な顔を持ちます。生まれは福井市。金沢美術工芸大学を卒業後、東芝に入社してインダストリアルデザインの世界に入りました。
28歳だった1978年、交通事故に巻き込まれて車椅子生活となり、転機が訪れます。1979年にフリーになった後、福井の伝統工芸と工業デザインの融合を図るなどさまざまな分野に挑み、毎日デザイン賞を始め数々の賞を受賞。さらに1996年から、新設されたばかりの名古屋市立大学大学院芸術工学研究科の教授を務め、1999年には同大学で医学博士号を取得しました。
ナノフォトンの河田聡会長と出会ったのは、川崎さんが名古屋市大の教授だった頃。河田会長は当時、大阪大学大学院工学研究科の教授でした。同研究科に2001年、「フロンティア研究機構」が設置され、ここにデザイン理工学という分野も立ち上げようと、初代機構長の河田会長が川崎さんに特任教授への就任を依頼したのです。
川崎さんは、こう振り返ります。
「まず『特任教授って何ですか』と思いましたね。5年の期限があるということでした。阪大に行くかどうかは悩まず、そこで何をやったらいいかという話をしたと思います。河田先生から『顕微鏡の研究をしているが、君がやっている光造形もやるから教えてくれ』とも言われました」
光造形は、今で言う3Dプリンターです。川崎さんが医学博士に認められた論文は「光造形システムによる全置換型人工心臓の基本的形態化デザイン」。人工心臓をデザインし、光造形システムで模型を作る研究でした。事故の影響で心臓の機能が悪く、自分で人工心臓を作りたいという思いを持っていたそうです。
「僕はもともと、医学部を受験していました。でも、浪人中に、医者になるのが嫌になり、母に相談すると『医者なんて向いてないよ』と。さらに『美大か音大しかない』と言うので、僕は高校時代にポスターを描くのがうまかったこともあり、美大を受けることにしました。母には『赤い血を見て暮らすより、赤い絵の具を見た方が楽しいんじゃない』と言われました」。
阪大で
阪大では、2002年10月から特任教授を務めた後、2006年に工学研究科の教授となり、さらに医学部附属病院未来医療センターの教授も兼任。2015~2018年には阪大医学系研究科「コンシリエンスデザイン看医工学寄附講座」の特任教授を務め、河田会長とは今に至るまで交流を続けています。
「河田先生は論文が書けて、モノづくりもする。ものすごく頭が柔らかく、デザインが分かっています。阪大では他に、ロボットの研究開発の石黒浩教授や、心臓血管外科の澤芳樹教授といった超一流の先生が集まっていました。いい大学に来たなと思いましたよ」。
川崎さんと河田会長、澤教授は2016年7月、一緒に記者会見に臨んでいます。デザイン系、工学系、医学系が手を組み研究開発をした「深紫外線殺菌装置」の発表です。川崎さんは当時、デザイン・看護学・保健学・医学・工学の連携による商品開発を進める「コンシリエンスデザイン看医工学寄附講座」(医学系研究科)の特任教授でした。
この深紫外線殺菌装置は、手で握れば皮膚の表面だけに深紫外線が当たり、殺菌・消毒できる装置として開発されました。
コロナ禍の今、川崎さんは再び深紫外線に注目しています。
「全身を深紫外線で消毒できるような装置を河田先生に作ってほしいですね。顕微鏡の会社だけど、やってもいいんじゃないかな」と提案しています。
デザインは問題解決
ところで、川崎さんは今のデザインの世界をどう見ているのでしょうか。
「デザイン系、特に僕がやっている工業デザインは、本当だったら理科系だけど、理科系がものすごく少なくて職能的にはやばいなと思っています。微分積分ができないとダメ。車のデザインも、理科系でないとできないでしょう。また、芸術解剖学や人間工学、HUSAT(Human Science and Advanced Technology)も重要です。僕は今、眼鏡のデザインをしていますが、人間の解剖学的仕組みを理解している必要があります」
「デザインは、問題解決と難問解決です。だから、デコレーティブではありません。必ず、発明をやるんです。だから僕はよく、河田先生に『発明はありますか?』と聞きます。河田先生は『あるよ』と答えますね」
川崎さんと河田会長は専門分野は違いますが、根本のところで理解し、通じ合っているのだと思います。
◇
後日、川崎さん夫妻がナノフォトンを訪れ、大阪ショールームを見学されました。その時の写真です。