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RAMANview
“宅配便で運べる”を目指し開発


ナノフォトンの広視野ラマンスコープ「RAMANview」は、錠剤のように大きな試料でも全体像を観察でき、表面に高低差がある試料の測定も得意としています。こうした特長に加え、「気軽に持ち運べる小型軽量ボディー」も開発のコンセプトだったそうです。実は、最近までこのことを知りませんでした。今回は、RAMANviewについて詳しく聞いてみました。(メルマガ編集長/フリーライター・根本毅)

大阪ショールームに展示された広視野ラマンスコープ「RAMANview」

先月、元箕面市長の倉田哲郎さんがナノフォトンを訪れ、新しくオープンした大阪ショールームを見学していた時のことです。社員の1人が、RAMANviewを「運べる装置です」と説明しました。隣りにいた私は「え?」と思い、慌ててメモ。ナノフォトンのメルマガ発行に関わって約8カ月たちますが、初めて聞く話です。

2012年9月に発売されたRAMANviewは、私の理解では「大きい試料を測定できるラマン顕微鏡」でした。というのも、以前、技術担当の小林実取締役にインタビューをした際にこんなやりとりがあったからです。

──今まで関わった製品で、一番気に入っているのは?

小林取締役 実は、広視野ラマンスコープ『RAMANview』です。初めて自分で企画したからなんですけどね。自分の子どもがかわいいのと同じです。

小林取締役 RAMANviewは大きい試料を見る装置です。RAMANtouchなどは顕微鏡の対物レンズを使いますが、見たい物によって適切な見方は異なると思っています。虫眼鏡が適切な場合もあるし、もっと細部を確認したいなら実体顕微鏡を使います。ラマン分光で観察する装置は顕微鏡の他にもあっていいんじゃないかと考え、RAMANviewを企画しました。

──どれくらいのサイズの物を見るのに適しているのですか?

小林取締役 サイズとしては、500円玉ぐらいの大きさの物が見られます。薬の錠剤全体を一度に見られるし、液体窒素に沈めたサンプルをそのまま観察することもできます。岩石の全体を一度に見るという使い方もできます。世の中にない装置を作るというチャレンジをしているところで気に入っています。

対物レンズは0.3~2.0倍から選択でき、パンフレットでも「実体顕微鏡の対物レンズに最適化した光学系を搭載」「極めて広い観察視野」「試料表面に1ミリや2ミリの高低差があっても、ピンぼけのないラマンイメージングが可能」などと説明しています。

それでは、「運べる」とは具体的にどういうことでしょう。河田聡会長と小林取締役に改めてRAMANviewについて説明してもらいました。

RAMANviewの開発は、社員の1人が製薬会社で「錠剤の表面をそのまま見られるラマンイメージング装置が欲しい」と聞いてきたことに始まったそうです。錠剤は表面がカーブしているため、顕微鏡で一度に見ようとしてもピントが合いません。分解能はそれほど高くなくてもいいから、全体が見られる装置が欲しい。そのニーズに応えようと、実体顕微鏡の対物レンズを使うラマンイメージング装置の開発に取りかかりました。

小林取締役「もともと、大きな試料を見る装置を作りたいなと思っていました。試作機の開発コードは出世魚の『ツバス』です。初号機が『ハマチ』。それを改良して『メジロ』になりました」

河田会長「高い分解能で細かいものを見るのではなく、広い視野である程度の大きさのものを見られるようにしたわけです。高い精度はあまり求めなくていいので、手軽に持ち運べる小型軽量ボディーを追求しました。特別にトラックをチャーターするのではなく、宅配便で運べるということが重要だという考えです」

シンプルに、軽く、おしゃれにしたのがRAMANview」と話す河田会長

最速、最高画質を誇るナノフォトンの高性能レーザーラマン顕微鏡「RAMANtouch」も小型化を図っていますが、約70キロあります。他社のラマン装置では1トンを超えるものも。しかも、精密機器なので運搬は細心の注意が求められます。従来の装置はトラックをチャーターして運び、技術者が赴いて組み立てる必要がありました。

一方、完成したRAMANviewは約35キロと軽量。大きさもコンパクトで、幅30センチ、高さ61センチ、奥行き72センチです。

RAMANviewの小ささを説明する小林取締役

小林取締役「RAMANviewは、お客さまに製品を送れば自分で設置して使ってもらえる、という目標を立てて開発しました。そうすれば海外にも売りやすいし、故障などのトラブル時は送り返してもらってサポートできます。そのため小型化だけでなく、ケーブルの本数を可能な限り減らすなどの工夫もしました」

開発時に描かれたRAMANviewのイメージ(小林取締役提供)

実際には現在、技術者が訪問して組み立てていますが、お客さま自身に設置していただくことももちろん可能。デモを希望するお客さまに送り、使っていただいたケースもあるそうです。届いたらパソコンに接続し、マニュアルに従って操作すればすぐに使えます。そのような使い方ができる装置は、今のところRAMANviewだけです。

開発で苦労したことは何でしょうか。

小林取締役「苦労というか……。この時、分光器を初めて社内で製作したのですが、実際に作ってみると、想定していない場所で光が反射し、検出器に入ってしまうこともありました。試行錯誤を繰り返し、ある程度構造が決まるとデザイナーにデザインを考えてもらいます。今度は、スペースの制約がある中で電気回路をどこに置くかなどを考える。パズルのように、これをここに動かしたら隙間ができるので、これをここに詰めようという感じでした」

輸送時の振動を考慮し、振動実験も行ったそうです。

小林取締役「振動試験機に何度も乗せました。どこが壊れるか、どこのネジが緩むか、などを確認して構造を改良し、宅配便で送っても再調整がいらないようにしました」

コンパクトを追求するとともに、デザインにもこだわっています。

河田会長「小さく作りたい、軽く作りたいと設計したら、機能美が出てきました。人は、かっこよさに付加価値を見いだし、お金を払います。ラマン顕微鏡もかっこよくあるべきです」