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導入事例
日東分析センターで活躍するRAMANtouch


日東分析センターのみなさん(撮影時のみ、マスクを外していただきました)。左上から村上さん、鈴木さん(グループ長)、小谷さん。左下から尾本さん、長谷川さん。

 Nittoグループの分析会社「日東分析センター」は、2020年12月にナノフォトンのRAMANtouchを導入し、有効に活用しているそうです。活躍の様子をお聞きしようと、同社の茨木解析技術部(大阪府茨木市)を訪ねました。(メルマガ編集長/サイエンスライター・根本毅)

 日東分析センターの本社は、駅から徒歩8分の便利な場所にあります。出迎えてくれたのは、茨木解析技術部の表面物性評価グループ第2チームの方々。まず、RAMANtouchが設置されている部屋を見せていただきました。

 会議室に移り、第2チームチームリーダーの村上修一さん、主任技師の小谷理恵さん、副主任技師の長谷川加奈さんから説明をうかがいました。小谷さんと長谷川さんがラマン顕微鏡の担当で、RAMANtouchを毎日のように使っているそうです。

──まず、日東分析センターの紹介をお願いします。

 村上さん 日東分析センターは、、Nitto(日東電工株式会社)のグループ会社の1つです。Nittoグループは国内外に99社(2023年1月現在)あり、従業員は計2万8000人。海外売上比率は2021年度現在、80%に達します。

 スマホやパソコンに使う偏光板や粘着テープ、水をきれいにするろ過膜、プラスチック光ファイバーなど多種多様な製品を製造しています。ほとんどがBtoBですがBtoCもあり、床などのゴミを取る粘着クリーナー「コロコロ」はNittoグループのニトムズの登録商標です。

──コロコロはよく使っています!

 村上さん 日東分析センターは、1974年に日東電気工業株式会社(現・Nitto)の技術研究所から分析分野のメンバーが分離独立して設立されました。分析拠点は、ここ大阪府茨木市の本社と、愛知県豊橋市、三重県亀山市にあり、いずれもNittoの工場がある敷地内に同居しています。営業所は大阪営業所と豊橋の中部営業所の他に、東京営業所があります。

 従業員は173人(2022年4月現在)。売上比率は、Nittoグループから依頼された分析が7割で、残り3割は外部からの依頼でさまざまなサンプルの測定を行っています。

──分析センターは世の中にたくさんあります。日東分析センターは何が強いのでしょうか。

 村上さん 他の分析会社の親会社は素材メーカーであり、そこから独立した分析会社であることが多く、原料の組成分析に強いイメージがあります。一方、弊社の親会社である Nitto は中間材料メーカーですので、原材料は購入し、原材料に機能を付加するために延伸やスパッタ、材料の複合利用などを行い、新たな機能を発現させる加工技術を開発しています。その際、分析にて、機能が発現した状態の構造はどのようになっているのかを評価しますし、時には技術開発も実施します。そのため弊社の分析技術は、「機能発現メカニズム解明のための高分子分析技術」 が強いと考えています。

 村上さん さらに、弊社はこうした強みを発展、拡大させようとしています。例えば、素材を引っ張るプロセスがあるならば、引っ張っている状態での評価がしたい。加熱して硬くなる材料だったら、加熱しながら変化の様子をリアルタイムで見たい。さらに、貼り合わせた界面の状態、調湿調温状態の組成や形態変化、延伸によって分子がどう並ぶか、など見たいものはたくさんあります。このため、動的・その場・3次元計測を目指しています。

──動的・その場・3次元計測とはどういうものですか?

 村上さん 動的・その場・3次元計測を説明する際に、よくイカの絵を出しています。イカが泳ぐ機能を理解するためには、泳いでいる状態でそのまま調べる必要がありますよね。従来の分析は生きたままではできず、ほとんど乾燥したスルメの状態やできても刺身の状態で測定していました。それは静的な評価です。そうではなく、やはり海の中で見た方が機能理解は進むので、強みとしてイカを泳がして計測する技術を作っていこうとしています。

──その目的のために、ナノフォトンのラマン顕微鏡は役立っていますか?

 村上さん はい。イカが泳ぐ状態を評価できるところまではまだ行きませんが、少しでも近づくために、高速測定ができるナノフォトンの装置を導入しました。刻々と変化する様子を高速で撮るために必要でした。RAMANtouchには、一直線に並んだ400点のデータを一度に得る「ライン照明」という機構がありますから。この機構を買ったということになります。

 小谷さん 装置選定の時にいろいろな装置メーカーに同じサンプルを持ち込んで測定してみたのですが、RAMANtouchは速さの点では一番でした。

 村上さん これはラマン顕微鏡の強みなのですが、顕微鏡の下にぽんとサンプルを置いて測れることも助かっています。他の分析装置だと、真空系でないといけないなどの制約がある場合があります。動的・その場・3次元計測では、加熱・加湿をする器具や延伸治具を顕微鏡下に置いて測っています。もちろん、分解能の高さも強みです。

 小谷さん 今までの装置だと、温度や湿度などの環境制御や動的評価を行うにあたり、どうやって装置に入れるか、測定条件の工夫など、いろいろなことを考えなければなりませんでした。しかし、RAMANtouchだと、とにかく放り込めさえすれば、後は搭載されている様々な機能を使い、こちらで測定条件を考えてクリアできます。我々が培ってきた様々な前処理&解析技術×RAMANtouchとの融合により、今までできなかったことがいろいろとできているのも、この装置あってこそです。

──高速測定の他にも、選んだ理由はありますか?

 村上さん イメージングです。ラマンで測定するとスペクトルのデータが出ますが、お客さまにスペクトルを見せてもなかなか伝わりません。「このピークが高くなって」と言うよりも、画像を見せて「こう変わっていますよ」と示す方が理解につながります。

スペクトルの一例
イメージング像の一例

 小谷さん イメージング像は誰が見ても分かりやすく、インパクトが圧倒的に強いですね。私たちは、光学材料や粘着材料の機能を発現する成分の分布評価をすることが多いのですが、イメージング像が重要なんです。お客さまには、スペクトルではなくイメージング像でデータを出すようにしています。例えば「数分後にはこういう形で分布が変わっていますね」と示すことで、スペクトルが読めなくても内容が一目瞭然に理解できるのです。

──動的・その場・3次元計測の実例を紹介してください。

 長谷川さん ハンドクリームの3次元成分分布解析を紹介します。ミネラルオイルと水とパラフィンが3次元的にどのように分布しているか、パソコンのモニター上で様々な方向の断面から組成情報を知ることができます。

 動画では、ミネラルオイルが網目状になっていて、水がその中に保持されている様子が確認できます。また、ミネラルオイルの領域にパラフィンも局在しています。これは2次元だと分からないため、お客さまのより良い製品設計に貢献できる技術と思います。

──この3次元成分分布解析は、日東分析センターに依頼すればやってもらえるのですか?

 長谷川さん はい。ホームページにも掲載(https://www.natc.co.jp/result/r2280922/)しているので、ぜひご覧ください。動画も見られます(https://www.natc.co.jp/movie/movie18/)。

 X-Y方向の2次元の画像を、少しずつ深さ方向にずらして何十枚か撮って、それを重ね合わせて3次元にしました。動画の作成には、ナノフォトンの解析ソフトだけではなく別のソフトも使用しています。

──これは分かりやすいですね。

 長谷川さん ハンドクリームは時間とともに乾燥してしまうため、高速で測定出来ることが3次元像を得るのに役立っています。この測定は30分で終えることが出来ました。

──他にも測定例はありますか?

 長谷川さん 今後ホームページに掲載する予定ですが、PETのフィルムを左右から引っ張りながら測定した例があります。1分間隔で測定し、つなげて動画にすると、引っ張られている時の応力と結晶性、配向性の変化が分かります。

 小谷さん これだけの範囲を1分間で測定できることがライン照明の素晴らしいところです。通常のポイント測定では、同様の分解能・測定時間で評価することは難しいと思います。

 長谷川さん 高速イメージングの機能と、延伸や加湿熱の治具などを組み合わせて、様々な動的その場評価ができるようになりました。

RAMANtouch

──RAMANtouchの使い勝手はいかがですか?

 長谷川さん 第一に、操作が直感的で分かりやすいです。ステージの上げ下げや対物レンズの切り替え、レーザーのオン/オフなど、すべての操作をパソコンとマウスでできます。新入社員が研修に来てもすぐに使い方を覚えてくれて、教育に充てる時間が短縮されています。

 小谷さん ステージは、全部電動にしたことで(費用はかかりましたが)、作業性が上がり、すごくよかったですね。新型コロナによる出社制限で私が出社できず、自宅から測定をしなくてはならないときに役に立ちました。誰かがサンプルをステージの上に置けば、後はリモートでデータが取れます。

 長谷川さん ステージが回るのも便利です。延伸したら分子構造がこっち向きに配向して……、という状態を評価するときに必須です。

──これからのナノフォトンにどのような期待をしていますか?

 村上さん 阪大発ベンチャーということもあって、「ラマンでいいものを作るぞ」という気持ちがすごく伝わってきます。実は、2020年に導入する前にも、2011年ごろに導入を検討したことがありました。その時は、ラマン照明に少し満足できない面があって見送ったのですが、2020年の時には改善されていました。だから、これからどんな装置や機能を開発するのか楽しみですね。測定のスピードだけでなく、より小さいものを見られるようにもしてほしいです。社員を増やす計画だというので、期待しています。