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熟練への道 
UV硬化樹脂の測定に挑戦


 紫外線硬化樹脂って知っていますか? 妻が購入した紫外線硬化樹脂と紫外線ライトが自宅にあり、何だろうと気になっていました。その名の通り、紫外線を当てると硬化するジェル状の樹脂なのですが、アクセサリーを作ったり、ネイルアートに使ったりしているそうです。ネットで調べてみると、硬化の前後でラマンスペクトルに違いが現れるらしく……。早速、ナノフォトンの大阪ショールームに樹脂とライトを持ち込み、測定してみました。(メルマガ編集長/サイエンスライター・根本毅)

 妻は、四つ葉のクローバーを中に閉じ込めたアクセサリーなどを作ったことがあるそうです。そういえば、以前もらったことがありました。

妻が紫外線硬化樹脂で作ったアクセサリー

 紫外線硬化樹脂について調べてみると、モノマーやオリゴマーと光重合開始剤が含まれていると説明がありました。紫外線を当てると、光重合開始剤が分解してラジカルが発生し、このラジカルがモノマーやオリゴマーに作用して重合反応が進む仕組み。重合は数秒で進行し、すぐに硬化します。

 紫外線を当てないと硬化せず、紫外線を当てるとすぐに硬化する性質が、アクセサリー作りやネイルに重宝がられるのでしょう。

 さて、自宅にはいくつかの紫外線硬化樹脂があり、その中から「成分:アクリル系UV硬化性樹脂」と書いてある製品を借りてきました。硬化時間の目安は「UVライト36W 約4分」。自宅の紫外線ライトも「36W」でした。

 アクリル系なので、紫外線で生じたラジカルがアクリレートの二重結合(C=C)を攻撃し、重合が始まるようです。C=C結合があれば、ラマンスペクトルで1640cm-1にピークが現れるはずなので、強度の変化を見ることにしましょう。

 いよいよ測定に入ります。実は、紫外線の硬化樹脂の測定はナノフォトンのウェブサイトで既に紹介されています。「樹脂の硬化度とその分布」というページです。こちらも参考にしてください。

スライドガラスに垂らした紫外線硬化樹脂

 スライドガラスに紫外線硬化樹脂を垂らし、紫外線を当てると、確かに硬化します。2分でカチコチになりました。量が少ないためでしょう。

 どのように測定しようか迷いました。結局、10秒ほど紫外線に当てて表面だけを硬化させ、ラマン顕微鏡で外側から内側に向かって測定することにしました。うまくいけば、外側は硬化してC=C由来のピークが小さく、内側は重合が進んでいないためピークが大きくなるでしょう。

 白い紙の上に紫外線硬化樹脂を垂らし、10秒ほど紫外線に当てました。外側は硬くなっています。指でつぶしてみると、硬化していない樹脂が中からぶちゅっと出てきました。

 いよいよ測定です。測定モードは、1回で同時に400点横一列を測定し、深さ方向に走査していく「XZ Imaging」にしました。露光時間10秒で、サンプルの上端付近から1000μm下まで20μm間隔で測定することにしたため、9分弱で測定終了です。

 結果は、期待通りでした。

 下の図は、測定スタートからの深さが200μm、400μm、600μmの箇所のスペクトルです。右から3番目のピークに注目してください。

 この右から3番目のピークが、C=C由来です。

 サンプルの外側は紫外線が当たって重合が進み、C=Cが減っています。内部では重合が進んでいないため、C=Cが残った状態になっています。

 今回は、結構きれいなデータが得られたのではないかと1人で喜んでいます。C=C由来のピーク以外にも変化しているピークがあるので、何に由来するものなのか調べてみようと思います。